ZOO/乙一

10の短編からなる本。主に小説すばるに掲載されていたものを収録。わりとミステリー寄りの凄惨な話しが多いのに、私はすべてに共通するテーマとして「救い」を読み取った気がします。虐げられてる人間と、おどろおどろしい殺人と、話しの展開で持ってくミステリーがほどよく交差して配置してあってなかなか楽しめた。

「カザリとヨーコ」サガリとヨーコは一卵性双生児。サガリは母親のお気に入りでみんなの人気者、ヨーコは母親からネグレクトされ食事も満足に与えられず風呂も入れず台所で生活している。学校でも嫌われ者だ。スズキさんというおばあさんと友人になるがそれも長くは続かず、ある日…
「血液を探せ!」そのまんま、血液を探す話し。交通事故で痛覚が麻痺した老人が、息子たちと出かけた旅行先で気付かないうちに刺されてしまう。痛みは無いが、同行していた医者が持ってきた輸血用の血液を探し出さなければ、死んでしまう…。
「陽だまりの詩」病原菌で人が死に絶えた世界。ロボットは作り主が死んだあと埋葬する役目のためにつくられたが、実は…。
「SO-far そ・ふぁー」僕が幼稚園に通っていた頃、気が付くと父には母が、母には父が見えなくなっていた。しかも二人は、相手が交通事故で死んだという。僕は二人の間の通訳を始めた…。
「冷たい森の白い家」子どもの頃から閉じ込められていた馬小屋は人の顔に見える石でできていた。母屋の伯母や従兄弟から暴力を受け、顔に穴が開いた。やがて馬小屋を出て、殺した人間の死体で家をつくるようになる…。
「Closet」ミキは夫の実家へやってきた。ミキの過去を知った夫の弟に呼び出されて彼の部屋に行くが…。
「神の言葉」他人の目を気にしていつも優等生の仮面を被り、周囲を騙していた僕には、特殊な能力があった。呪いの言葉をかけると全てその通りになる神の言葉を持っていた。
「ZOO」毎日郵便受けに1日づつ腐乱していく女性の死体の写真が入っている。彼はその送り主=殺人の犯人を探しに街に出るのだが…。
「SEVEN ROOMS」姉弟は突然襲われ、気がつくと中央に異臭のする水が流れる溝のある部屋に閉じ込められていた。弟はその汚濁の中、溝を行き来して7つの同じような部屋があることがわかるのだが…。
「落ちる飛行機の中で」ハイジャックされた飛行機の中、なんととなりに座っていたのはセールスマンでこんな時にもセールスを始める…。

私が話しとして面白かったのは、1.SEVEN ROOMS、2.SO-far、3.落ちる飛行機の中で、ですかね。ミステリーとして「Closer」も面白かった。ちょっとこないだ読んだ「葉桜の咲く季節に〜」の手法を思い出した。
でもラストに(主人公にとっての)救いを一番強く感じたのは、「神の言葉」です。

★★★