ビーナスブレンド/麻生哲朗

つまり映画ホテルビーナスの原作。というか小説版です。麻生さんの作家としての書き方は思ったより冷静な切り口で、プランナーぽくって、それがすんごく心地良い。気に入ってます、読んでてせつないです。
映画では描ききれなかった細かい部分、(以下ネタバレ?)

サイの名前はサイレントのサイだとか(気付かなかったの私だけだったりして)、流れてきたとき缶のようにひしゃげて空っぽに見えたからカンと名づけられたんだとか、ボウイを置き去りにした母親が誰だったかもしれないとか、映画では唐突に思えたクスリの伏線もちゃんと引いてあった。あのイエスのくだりもボウイのくだりもあったなら、チョナンがソーダを責めたのはよくわかる。住人たちの心の動きやエピソード、色んな小さいことがきちんと文字で追っていけて、頭ん中にはあの街の映像があって、はまる。チョナンと彼女、ガイとその妻、恋人たちの関係も映画に比べたら詳しく書かれていました。せつなかった。
私は欲張りだから、そして頭が悪いから、かなしい雰囲気、せつないムード、それだけでは泣けない。満足できない。そこにあった何もかも、感情の揺れも、出会いも、全部知りたい。
ちなみに。ビーナスブレンドで私が特に気に入ってるのは、ソーダが花屋を目指した理由です。「正直に言うと、花屋じゃなくて、花になりたいの。でもなれないの。だから花屋になるの。」

今まで、素晴らしい映画を見て、活字を書く者としてああやっぱり映像にはかなわない、と思うことが多々あった。それが映像の力であり文字の限界であり。もちろん勝ち負けの話しをしているわけではなくて。同じくらいに、活字でしかできないこともある。ホテルビーナスに限って言えば、確かに映画はビーナスカフェの雰囲気とか空気とか見えないものは凄くきれいに表現しているけれど、チョナンはかっこいいけど、私にとっては何か足りなかった気がする。共感しきれなかった、のかな。なんたってそこは最果ての街。それがこのビーナスブレンドを読むことで補完される。
最後まで読んだあとでもう一度映画を見るのが楽しみです。
映画を観ていまいち感動できなかった人も、逆にぼろぼろに泣いてしまった人にも、どちらにもお勧めの小説版でございます。(と宣伝してみる)

で、私は今から次ぎに届いたホテルビーナス草なぎ剛写真集とラブサイケデリコのアルバムを聞くわけです!そういえば平井堅が劇中歌のデスペラードを出すらしいっすね。それも欲しいなあ。

★★★★