誰も知らない@梅田ガーデンシネマ

トラックからアパートに荷物が運び込まれてゆく。引っ越してきたのは母けい子(YOU)と明(柳楽優弥)、京子(北浦愛)、茂(木村飛影)、ゆき(清水萌々子)の4人の子供たち。だが、大家には父親が海外赴任中のため母と長男だけの二人暮らしだと嘘をついている。母子家庭で4人も子供がいると知られれば、またこの家も追い出されかねないからだ。その夜の食卓で母は子供たちに「大きな声で騒がない」「ベランダや外に出ない」という新しい家でのルールを言い聞かせた。
子供たちの父親はみな別々で、学校に通ったこともない。それでも母がデパートで働き、12歳の明が母親代わりに家事をすることで、家族5人は彼らなりに幸せな毎日を過ごしていた。そんなある日、母は明に「今、好きな人がいるの」と告げる。今度こそ結婚することになれば、もっと大きな家にみんな一緒に住んで、学校にも行けるようになるから、と。
ある晩遅くに酔って帰ってきた母は、突然それぞれの父親の話を始める。楽しそうな母親の様子に、寝ているところを起こされた子供たちも自然と顔がほころんでゆく。だが翌朝になると母の姿は消えていて、代わりに20万円の現金と「お母さんはしばらく留守にします。京子、茂、ゆきをよろしくね」と明に宛てたメモが残されていた。
この日から、誰にも知られることのない4人の子供たちだけの"漂流生活"が始まった―――。

公式サイト http://www.daremoshiranai.com/ より

じわじわ、じわじわと悲しみが押し迫ってくるような映画だった。起承転結もない、淡々とした描写、セリフも少ない。母親は帰ってこないし、この生活の終焉も描かれていない。なのに観終わったあとも、家に帰った夜も、ずっと映画を思い出している私がいた。あの子どもたちが気になってしょうがない。
1988年に実際に起こった西巣鴨子ども4人置き去り事件をモチーフに撮られた映画だそうなんだけど。実社会の中であんな、子どもたちだけで暮らしていて、周りの大人は誰も気付かないものなのか、誰一人救ってやれないものなのか、やるせないものを感じる。荒れた部屋の様子を見た大家の奥さん、コンビニ廃棄を分けてくれるコンビニの店員さん、お金を借りに行った先のお父さんたち。洋服とかドロドロだし明らかにおかしいのに、誰も手を差し伸べない。ああでも、私ももしマンションの隣りの部屋で子どもたちだけが住んでいても、きっと気付かないだろうなあと思った。そういう社会の構造になっているんだと実感してわかる。
未婚の母子家庭・しかも子どもが小さいと、いまだに周囲からは白い目で見られるんだろうか。どっちかっていうと、今の時代は「無関心」な気がする。子どもたちを愛してはいたけど、自分の恋に奔放だった母親の、被害妄想にも似た思い込みがかなしい。あの子たちを棄てたのは母親だけではない、社会に住む人みんなだ。私たちみんながあの子どもたちを棄てている。だから映画のラスト、一番ちいさい茂が歩道の先でパッとこっちを振り向いたときはドキッとした。いたたまれなかった。
それでも子どもたちにとっては、身勝手な大人にひっかき回されるよりもあのまま4人でずっと暮らしているだけで良かったんだろう。自分が今生きている状態が「幸せ」か「不幸せ」か考えない、それが生きていることなんだなあと思った。他人の同情やら憐憫やらも歯牙にもかけない子どもたちのたくましさがまぶしい映画、明くんによくがんばったね、と言ってあげたい。

蛇足ですが私が一番せつなかったシーン。お金に困り始める生活の中、母親が送ってきた現金書留の封筒の住所を見て、明はまず104に電話をかける。携帯は繋がらないから現住所の電話を調べるのだ。賢い。判明した固定電話に電話をかけると、聞き慣れた母親の声が出る。「はい、山本です」。彼らの姓は「福島」だ。母親は既に男の元で自然に別の名前を応える生活を送っている。明は何も言わず、ただ黙って受話器を置く。ほんとうにかなしい。明が聡くて、104で調べることを思い付くほどしっかりしていて、こんなに我慢してるのに母親はもう「福島」という家族を棄てて行ってしまったということを正しく理解してしまう。そのことが余計にかなしい。

出演していた4人の兄・弟・姉・妹、4人みんな素晴らしかった。是枝裕和監督は子どもたちに台本を渡さず、1日1日その日に撮ることを説明して長い時間かけて撮影していったそうだ。子どもたちはどんなお話なのか知らなかったという。だからこそのあの演技なんだろうか。私のお気に入りは末妹のゆきちゃん。天使のようにかわいかった。
あ、あと茂役の子の本名…木村飛影っていうんだけど……時代的に考えても幽遊白書流行った時期だしあの飛影から取ったんですかね?お母さん?

あと、飛行機のごうごういう音があんなに怖いもんだと思わなかった。こわかった。それを忘れさせるようなタテタカコさんの「宝石」という歌もすてきでした。枯れた目で大きくなっていく誰も寄せつけられない異臭を放った宝石。



次ぎは何見ようかなあ。土曜日に誘われてるんですよ。「NIN×NIN忍者ハットリくん THE MOVIE」はもう観ました。ちなみに「スパイダーマン2」も観ました。候補としては「ディープブルー」=「LOVERS」>「父と暮らせば」>「華氏911」という感じです。