シスカンパニー公演「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」


演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
@渋谷Bunkamuraシアターコクーン


STORY:結婚23年目を迎えた大学教授夫妻ジョージとマーサ(段田安則大竹しのぶ)。
ある夜、マーサの父である学長主催のパーティから泥酔気味で帰宅した二人の会話は、その結婚生活を象徴するかのように気怠く、同時に攻撃的だった。疲れ果て休もうとするジョージに、マーサはパーティで知り合ったばかりの新任の助教授夫妻ニックとハネー(稲垣吾郎ともさかりえ)を家に招いたと告げる。
言い争いの最中に到着し恐縮する若い夫婦に酒を勧め、マーサは夫ジョージがいかに甲斐性なしかを喋り散らす。女たちが席を外すと、今度はジョージがなれなれしさを装いつつ底意地の悪いお喋りでニックに絡む。ジョージとマーサはお互いの不満を爆発させ、激しく罵りあい、その露悪的な振る舞いはエスカレートしていく。時にその矛先は若夫婦にも向けられ、ハネーがマーサから「明日21歳の誕生日を迎える息子がいる」と聞いたとジョージに告げたことから、一段と残酷で容赦ないものになっていった、ニックとハネーを更に深く引き込むように…………

秘めた記憶、暴かれる過去、誰にも知られたくない秘密、誘惑、虚栄、不安、愛憎。血が噴き出すような言葉のぶつけ合いが続く中、次第に夜明けが近づいてくる。

  • 第一幕 たわむれ
  • 第二幕 夜祭り(ワルプルギスナハト)
  • 第三幕 悪魔ばらい


http://www.siscompany.com/03produce/14virginia/


ほんとうに、演劇として、面白かったー!
以下多少ネタバレなので隠します。








私は洋モノに弱いので原作も何も知らずに観に行ったため、二組の夫婦がどうなるんだろ・どういうことなんだろ、とハラハラしながら観た。ほんっと、久々に心底楽しい観劇だったよう! KERA演出は「砂の上の植物群http://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20050504#p2)」に続いて二回目だったんだけど、どうやら私はかなり相性いいみたい。

原作ではもっと真に冷たい夫婦関係みたいなんだけど。今回の舞台ではジョージとマーサが実は互いを必要としていて、屈折はしてても愛してるのに、罵り喧嘩することでしか関係を持てない、その感じが酷く痛く悲しく。互いに大声を張り上げて罵倒するのに、その奥に相手への愛情が透けて見えるような演出、でも伝わらないという夫婦関係のもどかしさ。
「おれはもう、おまえを信じないよ。信じない」
「存在しないんだもの。消えちゃったの、パーティの途中であなた消えちゃったの」
教授夫妻の心理劇がとにかく凄くて、口汚い言葉の応酬がコメディ要素と嘘と本音、どのどれをもはらんでいるから一言一句聞き逃せない。ジョージ(段田さん)がとにかく圧巻だった。

  • 比べて若夫婦のトラウマはいまいち伝わってきにくかったんだけど、主役は大竹&段田夫妻だもんな、増幅装置の役割を果たした若夫婦は圧倒されていて当然。
  • シアターコクーン初だったんですけど、いいねこの劇場!ちょうどいい大きさの箱。今回は中央舞台で四方を客席に囲まれており、しかも回るし、特殊な形。二階席のBR列で観たんですが5000円なのに舞台横上方の全然いい席でした。暗くなったときの眺めがとっても好き。上から見下ろすので、演劇中にこんなに役者さんの後頭部やらつむじやらを見つめたのは初めてかも 笑。照明の演出も素晴らしかったので、これを上から観れて良かったなあ。(調べたら父帰ると同じ小川幾雄さんだった)音響の不気味な不協和音もすてきだった。
  • 吾郎さんの濡れ場。しっかり目を見開いて見て参りました。むふー。スーツを脱いだ白シャツの腰回りが意外なほどむっちりがっちりしていて、大人の男性の色気を感じる。乱れて緩んだネクタイ、開襟。うっとり。吾郎ちゃんは静かな声でのツッコミがうまいよな@わんぴーすでもあった。
  • 2幕の最後で私は、ああ息子はとっくに死んでんのな、というふうに読んでしまったんですよ。真相が3幕で明かされて、そうくるかー!と吃驚。まさか「そんざいすらしていない、くうそうじょうのむすこだった」なんて。でもそっちの方が、マーサが「ジョージでなくちゃ」「ジョージが一番私を楽しませてくれる・どんなふうに振る舞っても付き合ってくれる」という部分に真実味と切迫感を与えていて納得して唸った。21年も、二人でそうやって育ててきただなんて壊れてる、改めてなんつー夫婦関係だよ、と胸を締めつけられる。結婚して23年、息子は21歳、2〜3年経った頃から夫婦関係がおかしくなり始めたんだよね、そういうことか!
  • そしてその真相を破った夫の行動(むすこはジコで昨日シんだ、というでんぽうがきた、と告げる)が、より一層妻への愛・現状を立て直そうという勇気を引き立てていてまた唸った。
  • ラスト、「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」と言った夫と、「私はこわい」と夫にすがりついた妻。これは、少しの希望と読んでいいんだろうか。物凄く不安がつきまとうなかの、それでも一筋の希望。そのバランスが絶妙で凄く好きなラストだった。


気に入りすぎて、買うつもりのなかったパンフに思わず手が。このパンフの解説が詳しくて、いちいちウンウンと頷けてまたいい。ちょっと自分の受け取り方がもしかして大きく外してるんじゃないかと不安だったので… 笑。
パンフによると、この芝居の企画が立ち上がったのは4年ほど前で、シスカンパニーの北村社長が偶然あったケラさんに「しのぶちゃんでヴァージニアやりたいのよ、演出する気ない?」と気軽に声をかけられたとこから始まってるらしーです。と、いうことは、「父帰る/屋上の狂人」もやっぱりもしかしたら、北村社長が河原雅彦さんに「草なぎ剛くんで菊池寛、やりたいのよ、演出しない?」みたいなとこからスタートしたのかもしんないなあ、とか思いました。思って、にまにましました。