非正規レジスタンス(池袋ウエストゲートパーク8)/石田衣良 ★★★★

非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク〈8〉

非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク〈8〉

やっぱりこのシリーズだけは読んでしまう。うん、どれも面白かった。シングルマザー、ミッドタウン開発、日雇派遣・ネカフェ難民・格差、など今の社会で問題になってきたことを題材に取り込んで展開していく短編という形は変わらず。ファンタジーだから、解決方法がやたら社長のご子息・ご息女に拠っていて単調ではあるんだけど、現実ではこうはいかないんだろうけど、だからこそ救われる結末にはほっとする。マコトのキャラがまともなので読めるしね。連載時のタイトルは「非正規難民レジスタンス」だったらしいんだけど、なんで「難民」を取ったんだろうか。大人の事情かな。この表題作、若い日雇労働者の追い詰められ方や哀しみや現状がよく取材されてるような気がした。読んでるとドラマのIWGPが見たくなってくる。またドラマやんないかなあ。キャストは変わってしまうだろうけど…。

 サトシからは二日ほどなんの連絡もなかった。退屈な店番は続いた。おれは店先でぼんやりと考えていた。おれの年収は二百万円台だ。サトシとあまり変わらないだろう。だが、サトシは池袋で難民生活をしているし、おれはなんとか自分の部屋をもっている。違いは東京に家があるかどうかだけだった。
 生まれる場所が違っていれば、おれだってサトシのように背骨を曲げられ、医者にもいけずにこの街をうろついていたかもしれない。おれの結論はこうだ。転落の可能性は誰にでもある。おれたちの世界は完全にふたつに分かれたのだ。安全ネットのある人間とない人間。落ちていく人間は、自分でなんとか身を守るしかなくなったのだ。誰も助けてくれるやつなんていないのだから。
 なんて、ロマンチックで夢のある世のなか。

「ところで、なんで組合のトラブルなんかに、おまえが熱くなってるんだ。そっちはストリートギャングだろ」
 タカシはいつものようにしゃれた口をきいた。
「社会正義のため。まあ、正直な話、Gボーイズのなかにも、派遣会社に登録して、フリーターをやってるやつはけっこういるんだ。あれはあれで実に便利な働き方だからな」
 下々の者の暮らしにも心を砕かなければならない。やんごとなきかたもタイヘンである。タカシが冬の冷房のような声で言った。
「さっきのバリアーって、なんの話なんだ」
 おれは思い切り感謝をこめて言った。
「厳しい北風からおれを守ってくれるやさしいバリアーだよ。タカシ、いつもありがとう、ほんとに……」
 せっかく礼を言おうとしたのに、途中でガチャ切りされてしまった。
 礼儀しらずの王様。

(帯より)
俺たちは、透明人間じゃない。
派遣会社からの日雇い仕事でその日その日を食いつなぐフリーターのサトシ。「今のぼくの生活は、ぼくの責任」と言いきる彼をマコトもGボーイズもほうっておけず……

参考:ttp://d.hatena.ne.jp/yellowbell/20081217