非正規レジスタンス(池袋ウエストゲートパーク8)/石田衣良 ★★★★
- 作者: 石田衣良
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/07
- メディア: 単行本
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サトシからは二日ほどなんの連絡もなかった。退屈な店番は続いた。おれは店先でぼんやりと考えていた。おれの年収は二百万円台だ。サトシとあまり変わらないだろう。だが、サトシは池袋で難民生活をしているし、おれはなんとか自分の部屋をもっている。違いは東京に家があるかどうかだけだった。
生まれる場所が違っていれば、おれだってサトシのように背骨を曲げられ、医者にもいけずにこの街をうろついていたかもしれない。おれの結論はこうだ。転落の可能性は誰にでもある。おれたちの世界は完全にふたつに分かれたのだ。安全ネットのある人間とない人間。落ちていく人間は、自分でなんとか身を守るしかなくなったのだ。誰も助けてくれるやつなんていないのだから。
なんて、ロマンチックで夢のある世のなか。
「ところで、なんで組合のトラブルなんかに、おまえが熱くなってるんだ。そっちはストリートギャングだろ」
タカシはいつものようにしゃれた口をきいた。
「社会正義のため。まあ、正直な話、Gボーイズのなかにも、派遣会社に登録して、フリーターをやってるやつはけっこういるんだ。あれはあれで実に便利な働き方だからな」
下々の者の暮らしにも心を砕かなければならない。やんごとなきかたもタイヘンである。タカシが冬の冷房のような声で言った。
「さっきのバリアーって、なんの話なんだ」
おれは思い切り感謝をこめて言った。
「厳しい北風からおれを守ってくれるやさしいバリアーだよ。タカシ、いつもありがとう、ほんとに……」
せっかく礼を言おうとしたのに、途中でガチャ切りされてしまった。
礼儀しらずの王様。
(帯より)
俺たちは、透明人間じゃない。
派遣会社からの日雇い仕事でその日その日を食いつなぐフリーターのサトシ。「今のぼくの生活は、ぼくの責任」と言いきる彼をマコトもGボーイズもほうっておけず……
参考:ttp://d.hatena.ne.jp/yellowbell/20081217