いのうえ歌舞伎「蜉蝣峠」@赤坂ACTシアター


作:宮藤官九郎
演出:いのうえひでのり
出演:古田新太堤真一高岡早紀勝地涼木村了梶原善粟根まこと、高田聖子、橋本じゅん、他
http://www.kageroutouge.com/


面白かったー!!堤さんの着流しが最高に似合ってて、古田×堤の殺陣が鮮やかで息ぴったり、血飛沫ばしゃー!、大筋はおばかなんだけど最後にはちょっと泣ける。そんな舞台でした。暗い題材なのにエンタメしてて満足。私は暗いばっかりでもおバカばっかりでも嫌なタチなんで。

以下ネタバレ注意。









  • しょっぱなから堤さんが何と着ぐるみでっ!すんげえ可愛いし芸達者。あんなのも出来るんだ。出身地が近いので関西弁(兵庫弁)がするする入ってきて心地よかった。
  • ちんちんとかうんことか相変わらず「子どもかっ!」と言いたくなるようなギャグテイストw 一番笑ったのはぱふゅーむ風のダンスを地味トリオが始めたところでした。ぶはってなった。可愛かった。動きとやり取りで笑わせられるのが力のある熟練の笑いだと思う。
  • 天晴@堤さんの着流しがどれもこれも素晴らしい。チャンバラの時に自ら着物の分かれ目をまくって押さえる手つきにもまるで淀みがなくて見惚れた。もちろん根元まできっちり露わになるおみ足にも。ポニーテール、美しい。立ち姿、美しい。小尻、さいこう。ふんどし…!!(やめておこう) 今まで見た生の堤さんで一番かっこよかった(二番目はカモシカのように去る堤さん)。
  • 血飛沫の赤が実際に派手に飛ぶ切り合いってのを舞台で見てみたいとずっと思ってたから、蜉蝣峠は今の段階の技術でその出来る限りの表現を見せてもらえた気がする。燃えた。背後のセットを利用したり、返り血を白い着物に浴びる演出だったり、タイミングもばっちりだったし、欲を言えば血飛沫の飛び方が霧状ではなくもっとべとっとした血糊風の、おどろおどろしいものだったら最高だったんだけどそれは色々と無理なんだろうね。充分良かったっす。
  • ラストの闇太郎 対 天晴の殺陣がね、二人とも舞台慣れしててかつみっちり稽古した感のあるちゃんとしたものだったので感動した。ほんとかっこよかった。跳ね飛ばしたり受けたり滑ったりが二人の間で綻びなく具現化されていた。切り合って、最後は串刺しに刺して、もちろん脇の向こう側を通してるだけで本当に刺してはいないんだけど、いかにも本当に刺さってるかのような力の入れようで芝居の表現として痛みが伝わってきた。ぐぐっと力を入れる、その感じまで。素晴らしい…。
  • 勝地&木村の若いリョウリョウコンビ、かわゆかったー。勝地くんは相当いい役をもらっていたよ。勝地ファンは見るべし。父帰るのぴあ並びで一緒になった勝地ヲタちゃんは観ただろうか。
  • 子ども時代の闇太郎と、あとから登場する二人目の闇太郎の口調がちゃんとシンクロしていて、ちゃんと子ども時代を見たときに違和感が生まれるようにしてあるんだなあと思ったり。
  • 闇太郎とお泪の神社?でのやりとりがけっこう艶かしく色っぽく見えてほおお、となった。地べた這いずる表現、いいね。
  • 記憶を持たない男が、やっと見つけた思い出。担ぎ上げられ、真相がわかると手のひら返して罵られ、人でなしと呼ばれるままに人斬りと化しながら、それでも蜉蝣峠に向かおうとした闇太郎に涙しました。通り魔と変貌するまでの切迫した迫力がもっと見たかった気もするけど、その部分の激情さえ抜け落ちてしまっていた闇太郎が余計に憐れにも思えた。忘れてるのにまた切り合いを結んでいる、けれどその意味は前回とは違って、「頼む!行かせてくれ!」と土下座までした闇太郎のなりふり構わぬ無様さ、たったひとつのものに縋ってしまう人間の弱さががとてもよかった。殺陣から終幕までの流れが、すごく心に響いたラストだったと思う。最後のシーンにカゲロウを見たもの。面白く、役者の力量も素晴らしい、いい舞台でした。やっぱり経験値と、賭ける時間や情熱ってのは大事だな、と思わされた。尊敬。
  • でも、闇太郎が力尽きたその数秒あとでぴょこんっと起き上がって終演のお辞儀をしたときには涙が一瞬引っ込みそうになったけど(笑)。

あらすじ:

荒涼とした街道、ここは蜉蝣峠。この峠で闇太郎(古田新太)はたまたま通りかかった元役者の銀之助(勝地涼)と出会い、二人は連れだって峠を下り、街へとおりていく。そこは、ならず者が集まる無法地帯・ろまん街。飯屋の亭主・がめ吉(梶原善)が二人に声をかける。がめ吉によると、この街は、立派<りっぱ>(橋本じゅん)率いる立派組と、天晴<あっぱれ>(堤真一)率いる天晴組による縄張り争いが激しいという。
がめ吉の店からお泪<るい>(高岡早紀)という女が現れる。お泪は闇太郎と知り合いだというが、闇太郎は過去の記憶がないという。そんな闇太郎に、がめ吉は昔、この街で起きたある事件の話を始める。闇太郎の過去にはいったい何が…
そんな中、立派の息子・サルキジ(木村了)が江戸から帰って来て…

フライヤーの口上:

そこは人呼んで「蜉蝣峠」。
照りつける強い陽射しのせいで大気が揺れ、
その向こうに見える筈のないものが見えると、言われる。
しかしその男には何も見えない。
ただ時折、血の匂いが鼻をかすめるのみである───

人はあれを、天災だの、流行病のせいだのと言うが、そうじゃねえ。
わしはこの見えない眼で、確かに見たんでさあ。
二十五年前───うだるような暑い日だった。
突然この町の大通りに、魔物のような大男が現れた。
耳をつんざく悲鳴の中、
逆手に持った包丁が道行く者の首を斬り落とした。
振り回す鉄の下駄が、グシャリと音を立てて次々と頭を砕き割っていった。
百を超す死体の中、生き残ったのはこの盲のわしと、
まだ年端もいかぬ男の子が一人───。
それ以来この街は、仏様にも見捨てられちまった。
今日も、明日も、明後日も、
死んだ親分の跡目をめぐって馬鹿と阿呆が血を流す、
まるで蟻地獄のような街でさあ。

ただね……帰ってきたんですよ、あの子が。
いい大人になってね。
あの事件の衝撃で、過去の記憶をなくしてはいますがね。
でも、近寄っちゃあいけませんよ。
今日一人、あいつ、人を殺しやがった。ひでえ傷だった。
刀を手にしたら、あいつ自分でも
何をするかわからねえらしんですよ……。
飢えと暑さで頭がおかしくなると、
人は蜉蝣の向こうに幻を見る。
一体奴は自分の心の闇の中に、どんな過去の幻を見ているのか……。
え?名前ですかい?
そいつの名は、闇太郎。
人呼んで、蜉蝣峠の闇太郎───。