青空の卵/坂木司 ★★☆

うーん。けっこう主張というかポエムな心情説明が多いから、納得できる部分とハア?て思う部分との差が激しい。鳥井のトラウマ具合もわかって、そのへんの描写は可愛いんだけどやっぱ生ぬるいと思ってしまう。基本的に弱い人たちが日常の中で強くなっていくお話だからこれでいいんだろうか。登場人物がどんどん増えて、退場せずに繋がって広がってく感じは好きです。

「でもね、それは本当はとても幸せなことなんだよ。なぜかというと、自分の心に自分以外の人が棲むようになったからなんだ。君は、愛する人を、愛すべき人を心に刻んでしまったから、そしてその人たちを幸せにできていないから、現在を幸せには思えないんだよ。それはきっと、君が父親になったからなんだ。」

「さかき……泣いてる?」
 すでに涙はこぼれんばかりに、瞳に盛り上がっている。いつもなら、僕は急いで涙を拭うところだ。でも今日は違う。
「うん、泣いてるよ。なんか、嬉しいんだよ。だから涙が出るんだ」
「……嬉しいのに、泣くの?」
 一瞬で子供にかえった鳥井を、誠一氏と隆之さんが驚いて見ていた。鳥井は、不安そうに自分の洋服の袖をつかんで、引っぱっている。さっきまでの理知的な表情からは、想像もできないくらいに幼く見える。
「嬉しくても、泣くんだよ。だから心配しないでいいよ。つらい涙じゃなくて、あったかくて優しい涙なんだ」
「ほんとに、ほんとに、だいじょうぶなんだね?」
「ほんとに、ほんとに、だいじょうぶだよ」
 悲しい気持ちにはならないですんだけれど、それでも鳥井はぽろぽろと涙をこぼした。誠一氏が、息を呑むのがわかる。きっと、話には聞いて知っていたのだと思う。でも、鳥井のこの姿を目にしたことはないはずだ。