零崎曲識の人間人間/西尾維新 ★★★★

零崎シリーズ3作目。短編が全部で四つ。面白かった!!曲識の経験したことが時期によって色々わかるから親しみが沸くし、同時に人識の変わりようも読めるので二倍楽しい。真心による零崎一賊殲滅まで描かれてて、ここにきて零崎シリーズの意味がばーんと出てきた感じ。零崎って結局はそういうことだよね。最後はちょっと感動的だった…。ううーん参りました。戯言シリーズの最後のほうは、こっちを読んでから読みたかった気もする。そしたら特に出夢に対する気持ちも違ったかも。以下ネタバレかつ長いので畳みます。


  • ランドセルランドの戦い… 殺すことを目論んで総角三姉妹を仕込んだ上で遊園地でデートする子荻ちゃんと双識。双識を心配してこっそり手助けする曲識と人識。曲識の能力を小出しに披露するうまい話でした。人識は助けないで結局出夢とイチャイチャしてるだけなんだけど、そのイチャが好きな私としては問題なし。子荻ちゃんがちょっと双識に心を許してるっぽくなってるのもまたいいです。

 匂宮出夢は全身をくまなく使って──零崎人識に関節技をかけた上で、がちりと寝技に持ち込んでいた。口の中に指を突っ込んで、喋ることも悲鳴をあげることも封じている。
 その上で、「ぎゃはは──」と、出夢は哄笑した。
「よーお、零っち──元気そうで安心したぜ。零っちが元気だと、僕も元気になっちゃうんだよな──これってもう愛じゃねえ? ぎゃはは!」
「うー……、ぐ、ぐ、ぐーっ!」
「僕との再会が嬉しいのはわかるけど、そうはしゃぐなって──あの燕尾の兄ちゃんがどっか行ったら、喋るくらいはさしてやっからよ。ん?なんだありゃ……ファゴットか?でけえな……(中略)」
 地面に押さえ込んだ人識に聞かせるような実況中継まがいの台詞を言っている間も、出夢は人識の口の中に突っ込んだ指で彼の舌を休みなく弄繰り回し続け、それが人識から抵抗させる気力をすっかり奪っていたが、しかしやがて曲識の姿が完全に見えなくなったところで、先の言葉通り、出夢は人識の口腔内からその長い指を引き抜いた。
 その指を自分の口元に持ってきて、付着した人識の唾液を当たり前のように舐め取る。
「て、てめえ……」

  • ロイヤルロイヤリティーホテルの音階… 五年前の「大戦争」、曲識と哀川潤の出会い、ぷに子との戦闘。キャラにそれぞれ若い時代があったんだなーというのがサブストーリー的で面白い。そういうの好きなんですよね。ここから「少女趣味(ボトルキープ)」「菜食主義者(ベジタリアン)」たる現在の曲識になったというお話。零崎(無差別殺人鬼)でありながら対象を限定するという異端ぶりが、最終的には最後の章の種明かしに繋がっていくというのもいい構成です。
  • クラッシュクラシックの面会… 人識が「零崎双識の人間試験」で双識に託された伊織のために、曲識の仲介で義手を手配する話。人物同士のやり取りが面白いです。そんで、人識の苦労人っぷり・やられっぷりね…なんという萌えキャラ。曲識が寄こした楽譜の意味がわかるところも、ベタだけど良かったです。

「わかりますよ。わたしの通っていた学校って、音楽の授業に力を入れていましたからね。文武両道といいますか」
「音楽ってのは文でも武でもなさそうなイメージだけど」
「文化の文です」
「あ、そっか」
「ちょっと、ページをめくってもらえますか?」
「おう、わかった」
「ついでに肩を揉んでください」
「おう、わかった」
 人識は伊織の背中に回って、言われた通りに彼女の肩を揉んでから、
「って、なんでだよ」
 と突っ込んだ。
 意外と付き合いのいい殺人鬼である。

「……傑作だ」
 薄暗いはずの天井の照明を、とても眩しそうに見ながら──人識は、苦笑と共に呟いた。
「何が及第点だ……信じらんねえ。拷問器具としてこれ以上なく完璧だっつーの……」
 顔面も含めた上半身が、完全に紫色に変色してしまっている。人識を特徴付ける刺青さえかすんでしまうほどだった。
 多少の内出血どころの話ではなかった。
 それでも骨折はしていない。
 靭帯その他も無事だ。
 内臓も──血を吐きこそしたものの、それほど傷ついてはいないらしい。
 それに。
「それに何より、意識を失うことができねえってのが傑作だ……、痛みと苦しみが違うってのは、こういう意味か……打撃死は勿論、ショック死もできねえってのは、すご過ぎる。冗談じゃねえぜ、あいつ……」
 起き上がろうと思えば起き上がれるだろう。
 少なくとも肉体的にはそれは可能だ。
 しかし、精神的にそれができないようで──人識は寝転がったままの姿勢で、首だけを動かした。

  • ラストフルラストの本懐… 狐さんの指示によって、真心の試験運用として零崎一賊殲滅に乗り出した右下るれろVS曲識の最後の戦い。軋識の扱いがどうなるのかと思ってたら、そういうことね。曲識の「音使い」としての能力も考えうる限りのすべての使われ方が表現されていて、満足です。颯爽と現れる哀川潤はやっぱりヒーローだったし、ラストの文章も非常にキレてていい終わり方でした。

 零崎一賊は──笑って死ぬための集団だ。
 人ならぬ鬼の、殺人鬼。
 そんな者どもが、人間らしくあることを願って──徒党を組んだ。
 人間らしく生きるために、家族になった。
 けれど、あの橙色の暴力の手に掛かって死んだ零崎一賊の者のうち、いったい何人が──笑って死ねたというのだろう。
 所詮鬼は、人間ではない。
 この最後は。
 こんな惨めな最後は。
 あの見事な赤さからは、程遠い──
「ん? なんだ、零崎曲識じゃん」
 と。
 生まれて初めて、彼がその目に涙を浮かべた、その瞬間を狙い澄ましたかのように──ごく普通に。
(中略)
 誰よりも出待ちが長く。
 誰よりも出どころを心得ている。
 そういう女だからこそ──曲識の人生と、人生観を変えたのだ。

あとは人間シリーズラスト「零崎人識の人間関係」を待つのみです。どうやら11月発売らしい。化物語に続き刀語もアニメ化されるし、化物語は2期もあり得るんじゃないかと思うけど、この戯言・人間シリーズはいくらなんでもアニメ化にはならないだろうから、本で読むしかないよね。http://www.new-akiba.com/archives/2009/04/4_152.html