妖怪アパートの幽雅な日常4/香月日輪 ★★★☆


夏休み中の夕士のレベルアップ修行と、バイト先の運送会社での話。休み中なのでちゃんと長谷も登場して嬉しい。っていうか、夕士が続々とフラグを立てまくってて(色んな住人に修行後のお風呂に入れてもらったりとか)、長谷は確実に龍さんをライバル視したような気がする(笑)。特別大きな事件が起きるわけじゃないんだけど、テーマは「子どものときにいっぱい失敗しておくこと」と「生身で体験することの重要性」「コミュニケーション」って感じで、すんごくわかりやすい言葉で書いてあるのでいいです。このアパート楽しそうだなーるり子さんの料理食いてええええ。

「真夏の熱気の中で、次から次へやってくる荷物をさばいて汗だくになって、そこでおごってもらった冷たいコーヒーに二人が言った『ありがとう』は、身体の底から出てきた言葉なんだよ〜。真実の言葉だよね〜。そして、コーヒーのうまさに思わず笑う……。これも、真実の笑顔だよね〜」
「言葉は、身体がともなってなきゃダメだよね〜」
と、言葉のプロが言う。
「おっ……しゃるとおりです!! 一色さん!!」
 佐藤さんと詩人は、ガッシリと握手を交わした。
「今は、何も知らない子が増えている。情報がありすぎて、知ってるつもりになってるだけで、実はなぁ〜んにもわかっていない子。その子たちは、学び方も知らない。学ぶ前に、膨大な情報の中に放り出されちゃうからね。でも情報だけはあるから、そこからチョイスする。それで自分が作られたと思っちゃうんだネ。ものすごい勘違いだよね。本当の自分というものは、そのバイトの子たちのように、少しずつ体感して、積み重ねて積み重ねて作ってゆくしかないものなのにネ」
「身体から出る言葉か……」

 長谷の中には、たくさんある俺のドアのうちの一つがある。それは、「俺も知らない俺」のドアだったりするんだ。時には、知りたくないとか認めたくない部分を突かれて嫌になることもあるけど(特に長谷なんかは容赦しないからな。ズケズケものを言うし短気だし。いや、それは俺もだけど)。でも、長谷だから。長谷の言うことだから耳を傾けられる。そういう関係がいい。
 妖怪アパートに来て、俺はあらためて、俺と長谷が「そういう関係」であると思った。あらためて……感謝したい気持ちだ。



 龍さんの「第三の眼」の話をすると、やはり長谷は「第三の眼」のことを知っていた。
(中略)
「はは。でもおかしいだろ。デコとデコをくっつけて『これで移った』なんてさ。大霊能力者が、なんか微笑ましいよな」
と、俺は笑ったんだが、長谷は笑わなかった。俺の顔をじっと見ると、
「俺にもよこせ」
と言った。
「はあ?」
「龍さんの第三の眼だよ。俺にもよこせ」
「はあ? 何言ってんの、お前……おぅっ」
 長谷は俺の頭を鷲づかみにすると、自分のほうへグイッと引き寄せた。
 ガン! と、夜闇に星が散る。
「イッッデエェーーーッ!!」
(中略)
 その騒ぎに、ウトウトしていたクリが起きて泣き出してしまった。
「あー、ゴメンゴメン。うるさかったな〜、眠いのにな〜。ママはおおげさだな〜」
「誰がママだ……っ」
 泣きたいのはこっちだぞ! 見かけによらずハンパじゃねえんだから、長谷の石頭は。
 シロが起き上がって、ジッと俺を見ている。
「……非難がましい目で見るなよ、シロ。悪いのはパパだ。いや、パパじゃなくて、誰がパパだ、まったく……」