聖なる黒夜(下)/柴田よしき ★★★★

面白かった!!最後ちょっと泣いてしまつた…。麻生は、及川や山背に悪魔だと疑われていた練を今度こそ信じたんだよね。そして練にとっても麻生は初恋であり認められなかった権威=父だったんだろうなあと。

  • ミステリーとしてはちょっと都合がよすぎるとこもあるにはある。デパートで3人も偶然一気に邂逅してるとことか、植田が都合よく韮崎と寝てくれと頼んできたこととか(これはそういう奇跡の偶然があったからこそ難関の韮崎を殺せたんだろうけど)。でもそれを補ってあまりある男同士の熱い愛憎とか、組織に属する男たちの内面とか、そのへんの描写がいい感じだった。麻生が単なるいい人・デキる人でないとこがいい。
  • 文庫版解説がしをんさんなんだけど、いいあとがきっすなあ。多数派でありながら少数派。まさに最近考えてたことだったのでぐっとくる。そして、結論は結局引き受けていくしかないというとこに落ち着くんだろう。
  • あと、麻生龍太郎って名前はどうしても麻生太郎さんを連想してしまうのでこまった(笑)

「あんたのは邪恋だ」
 練は目を閉じたまま言った。
「本気であいつを楽にしたいなら、あんたの一緒に死ぬ方がいいと思うよ」
「俺はもう邪魔しないし、あいつを自由にした」
 及川の指が喉仏にかかった。
「あいつは好きなように恋愛して、好きなように生きられる」
「そうやって自分をごまかしてるだけだ。どうせあいつは逃げた女房を忘れられないんだからって、タカくくってるだろ、あんた。だけど今度の女は本気だぜ、ほっといていいのかよ」
 金属が喉に食い込んだ。丸い輪郭を持つ筒。銃口が喉仏を押し潰し、息ができなくなった。
「おまえさえいなくなれば、それでいいんだ」
 及川は独り言のように呟いた。
「おまえが生きているだけで、龍の人生に汚点が浮き出る」
「最初に間違えたのは俺じゃない」
「もちろん。おまえは気の毒な冤罪の被害者だ。だが、おまえはそのことの埋め合わせに善良であることを捨てた。その時点で、おまえの人生は無価値なものになった。いいか、良心に従って生きることを放棄した人間は、他人や社会からの良心も期待したらいけないんだ」

「あんたは典型的なバイセクなんだよ。それで、あんたのベクトルはいつも男を基点にして女であるものに対して向けられている。つまりあんたは、男としてなら男にも欲情できるんだ。その男が女の信号を発していればね」
「複雑過ぎて、わからん」
 麻生の言葉に、練は少し笑った。
バイセクはホモとヘテロの中間地点じゃない。まったく別な第三の存在だ。むしろ、ホモとヘテロは裏返せば同じものなんだ。でもバイセクは違う。バイセクってのは、同性であるか異性であるかには全然こだわらない。相手の人間が、自分が欲情する信号を発しているかどうかだけで判断する。あんたは及川さんの剣だけに惚れていたわけじゃない。ちゃんと及川さんに惚れていたんだ。及川さんが発してる、女としての信号をキャッチしていた。それなのに、及川さんはあんたを所有したかったから、手っ取り早くあんたを女として扱った。あんたは及川さんの中の男に興味はなかったんだ。なのに男を受け入れることを強要されたから拒絶反応が起きたんだ。バイセクってのはいちばんやっかいで、自分自身について誤解を抱き易い。俺の考えではバイセクには三種類いるんだ。男の信号にも女の信号にも反応する奴、男の信号だけに反応する奴、女の信号だけに反応する奴。でも後ろの二つの場合、自分の性別と、感応する信号との関係で、自分をヘテロだと思い込んだりホモだと思い込んだりしちゃうんだ。そしてある時、それまで考えていたのと違う性別に対して性欲を感じて戸惑う。(略)」

 練は、ひとつだけ選んだ。

「十年前、俺はいったい、どんな罪を犯したんだろう」

 なぜその質問を選んだのか、練にもわからなかった。ただ、その質問にだけは、龍太郎は嘘をつけない。そう思った。

「おまえは」
 龍太郎は、言った。
「無実だった」

他のシリーズの登場分も読もうと思うのでメモメモ。

  • RIKOシリーズ「聖母の深き淵」「月神の浅き夢」
  • 花咲シリーズ「フォー・ディア・ライフ」「フォー・ユア・プレジャー」「シーセッド・ヒーセッド」(練)
  • 「決断 大根の花」(麻生)
  • TimeBookTown「割れる爪」「雪うさぎ」「大きい靴」(麻生)
  • 携帯サイト「OUR HOUSE」
  • 「所轄刑事・麻生龍太郎」「私立探偵・麻生龍太郎」

時系列は、「所轄刑事・麻生龍太郎」→「聖なる黒夜」→「私立探偵・麻生龍太郎」→(「RICO」→)「聖母」→「月神」→「フォー・ディア・ライフ(花咲)」→「フォー・ユア・プレジャー(花咲)」→「シーセッド・ヒーセッド(花咲)」→「ア・ソング・フォー・ユー(花咲)」かな。