チグリスとユーフラテス/新井素子 ★★★★

  

遠い未来。地球の人々は他の惑星への移民を始めた。その九番目の惑星「ナイン」に向かう移民船に搭乗したのは、船長キャプテン・リュウイチ、その妻レイディ・アカリを含む30余名の選りすぐりのクルーたち。人々は無事ナインに定着し、人工子宮・凍結受精卵の使用により最盛期には人口120万人を擁するナイン社会を作り上げる。だが、やがて何らかの要因で生殖能力を欠く者が増加しだし、人口が減少しはじめ、ついに恐れられていた「最後の子供ルナ」が生まれてしまう。たった一人、取り残されたルナは、怪我や病気のために「コールドスリープ」についていた人間を、順番に起こし始める。最後の子供になると知りながら、母親は何故自分を生んだのかを知るために。また、ナインの創始者でもあるアカリに惑星の末路を知らしめるために。ルナと四人の女たちで語られる、惑星ナインの逆さ年代記

再読。やっぱ新井素子さんは面白いなあ!女性にしか書けないSFだと思う。多少感傷的・感情的な面を含めて。文体は洗練されてないけど、このアイデア、設定、構成力、テーマ性、それだけですごい。
惑星ナインへの移住を題材に、コールドスリープによって無理なく星が辿ってきた時代を遡れ、そのときどきの特権階級を描ける。こどもが貴重で存在理由になった時代もあれば、人口が増えすぎて資源が足りず子沢山が疎まれた時代もある。妊娠出産の問題、姓の問題、クルーの問題、ごく個人に落とし込んで語られるので読みやすい。ちょっと人生観変わるというか、つらいときでも別の見方ができるようになる気がする。例えばマリアの特権意識や対抗心、嫉妬は、こうして読むと馬鹿げたことだとわかるのに、現実ではそのものが跋扈しているんだものなあ。1章2章が好き、3章4章はもっと踏み込んでほしかったかも。