オルファクトグラム/井上夢人 ★★★★☆

2001年度「このミス」4位の名作。
姉を殺害し血を抜いた連続殺人犯に事件現場で襲撃された片桐稔は、その後遺症から通常の“匂い”を失い、イヌ並みの嗅覚をもつことになった。視覚として認識される匂いに取り巻かれまったく違う世界に戸惑いながらも、失踪したバンド仲間を、嗅覚を頼りに捜し求めてゆく。新たな能力を駆使することで、姉の仇を討てるのか?新感覚の大長編異次元ミステリー。

面白いなあ。殺人現場で殴られたのがきっかけで、匂いが「見える」ようになった青年が主人公。ぐんぐん読み進めながら、「嗅覚」は人間にとって置き去りにされた感覚である、という彼の実感になるほどーと唸る。視覚、聴覚、触覚、味覚、最後に嗅覚。「匂い」そのものを表す言葉がない、ということ、個人個人の知覚・認識・相対的な世界の捉え方に対する不確かさ、わかりやすい言葉で説明されていて脱帽。嗅覚世界、私も見てみたいなあ。また主役の男の子が爽やかで、見える匂いを元に次々いろんなことを当てていったり、犯人を追いつめる様子にワクワクした。テレビ番組が絡んできたり最後は世界的に有名になっちゃったり、そういう下世話なとこはちょっと辟易したけど、彼がうわついた性格じゃないので何とか読めたと思う。終わり方もとても幸せでいいんだけど、その鼻のおかげでろくに働きもせずに生活していけてよかったね、とか思うあたり私も充分下世話かもしれない。

井上夢人さんて初読みだったんですけど、

1950年生まれ。82年徳山諄一との共作筆名・岡嶋二人として『焦茶色のパステル』で第28回江戸川乱歩賞を受賞。86年日本推理作家協会賞、89年吉川英治文学新人賞受賞後、同年『クラインの壷』刊行と同時にコンビを解消する。92年『ダレカガナカニイル…』でソロとして再デビュー。ジャンルの枠にとらわれない意欲作を発表し続けて活躍中。

というひとだったのか!オルファクトグラム書いたときごじゅっさいだよ。すげえ。名作らしいクラインの壷も読みたい。

「オルファクトグラム=嗅覚図、嗅覚像」

作者は、文字通りの発達した嗅覚ではなく、主人公に「臭いが見える」という特性を与えた。ミノルは普通の意味で臭いを「嗅ぐ」能力を失った代わりに、大気中の臭素を分子レヴェルの映像として「見る」能力を獲得したのだ。オルファクトグラムとは主人公が「見る」、圧倒的な美しさに満たされた匂いの、香りの、新しい視覚世界を意味している。

http://www.so-net.ne.jp/e-novels/hyoron/syohyo/26.html

ドラマ化もされたそうで。この配役はけっこういい感じかもー。
http://www.magazine.co.jp/features/2002/wowow/anan/orfa/index.jsp