そして君の声をてのひらにのせ (オヴィスノベルズ)

そして君の声をてのひらにのせ (オヴィスノベルズ)

若手画家の小沢暁良(オザワアキラ)は2年前の事故以来、新しい記憶を刻めない記憶障害に陥っている。日常生活を、同居人で大学時代の先輩・尚弘に支えられていることで、暁良は尚弘を慕いつつ負い目も感じていた。一方、尚弘は暁良への想いを長年隠しており、最近強い独占欲を抑えることに限界を感じていた。そんなとき、暁良のかつての恋人・喬が現れる。昔の恋人のことは記憶していても、尚弘との2年間は覚えていられない暁良に尚弘は…。

一時期記憶障害のムーブメントでもあったんですかね?「はかせの愛した数式」や「50回目の〜」系の記憶障害を題材にしたBL。
うーんイラストで損をしている、気がする。全然こんな雰囲気の話じゃないもん。受の顔つきが好みじゃなくて、でも読み進めて、とても良かったわけですよ。尚弘がほんといいやつで、途中の苦労ぶりを読んでいてちょと涙ぐみそうに。相手が記憶を保ってられないってことは、自分がぜんぶ覚えて、背負って、律して、よほどつよくないといけない。それでもそんなことが人間に可能なわけがないし、行き場がない。けんかをして、悪いと思っても謝りたいと思っても相手はそれがあったことさえ覚えていない。普通の恋人同士ならケンカして仲直りして育めていくはずのものがそうはいかない。それははたして、どこかに進める恋愛なんだろうか?
2年前で止まったままの相手を前に、どう未来を築いていったらいいのか。好きなひとが記憶障害になったらどう愛していくのが正しいのか。記憶障害の相手の幸せをどう信じたらいいのか。もちろん、尚弘の取った行動や昔の恋人のキャラなどとてもBL的はあるんだけど。与えるもの与えられるもの、いろいろ考えさせられた。だったら、返ってくるものがなければ好きにならないのかとか。
曲がりなりにも決着の仕方が納得できるしあわせの形だったので良かった。まあ、障害を抱える2年前の時点で同居して好意を抱いてるからこその結末ではあるし難しいんだけどー。

ノーと言えば今にも喰らいつかれてしまいそうなほど欲望に満ち、それでもどうにか理性で手綱を引こうと相克するその表情は、乱れた髪の合間に覗く強い光の瞳とあいまって、まるで獣のようだった。知性と慈しみを持つ、美しい獣。