夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦 ★★★★

夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女

かくして、私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。(中略)
それは偶然と呼ぶべき回数をはるかに超え、「これはもう運命の赤い糸でじゃんじがらめだよ、キミたち!」と万人が納得してうけあいというべき回数に達していた。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。ご都合主義もいいとこだ。
しかし重大な問題は、彼女がまったく意を払わないということであった。私の持つたぐいまれなる魅力どころか、私の存在そのものに。こんなにしょっちゅう会っているのに。
「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」

「達磨が好きかい?」
先輩は言いました。
「はい。とても丸くて、小さいですからね」
私がそう言うと、先輩は笑いました。
名高い「学園祭」というものを大いに楽しめましたので、私は幸福でした。私は「なむなむ」と呟いて、神様に感謝しました。

と、このように、不思議な文体で「黒髪の乙女」と「彼女に恋する先輩」が交互に語る、ハチャメチャ冒険譚のような、それでいて意外にちゃんとした恋愛小説なんですね。初めは独特の言い回しに戸惑ってばかりで正直「これおもしろいか?」だったのだけど、読み進めていくうちにくどい文章のリズムや、各キャラの破天荒だけど妙に乾いた感じにハマってきた。2章の夏の古本市の描写でちょっとワクワクし始めて、秋の学園祭を描いた3章からは猛烈に楽しくなってくる。二人が少しずつ少おーしずつ近しくなっていくのが、心地いいのだ。遠回り過ぎるw 同じ京都を舞台に学生の恋愛を絡めた物語としては時期的にも本屋大賞的にも「鴨川ホルモーhttp://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20070215#1171545653)」があると思うんだけど、私はこっちのが好き。だって奇遇を装ってばかりの先輩とか、楽しすぎるよ!乙女もちゃんとかわゆいしな。変だけどズレてるけどちゃんとがんばってる点を評価。ラストではほんわかした気持ちになりました。表紙の装画イラストがアジカンのジャケットも手がけてる中村佑介さんなんだけど、乙女はともかく先輩の図のひょろいこと(笑)もっとごっつい人でも面白かったと思うにゃ。そして腐としては「先輩」のおともだちらしき「事務局長」との関係も見過ごせません。萌。ちょっと漫画的・落語的・妄想系ふぁんたじー、で、普通の小説を読み飽きたときに軽い気持ちで手を伸ばすといい息抜きになりそう(褒めてます)。印象的なフレーズも多々あったしね。個性的で才能あふるる、森見さんか…このひとのほかのお話しもこんななのかなあ?また読んでみようと思います、なむなむ!

作中で出てきた「乙女」のだいじな絵本はこれかな。

ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語 (大型絵本)

ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語 (大型絵本)

あ、はてなでブログ書いてはるんや。本屋大賞の授賞式のご様子が。まきめさんとも知合いだし(笑)一人称が「登美彦氏」なとこがまたそれっぽくていらっしゃる……
http://d.hatena.ne.jp/Tomio/20070405#p1
http://d.hatena.ne.jp/Tomio/20070409#p1