魔法の万年筆@パルコ劇場(渋谷パルコパート1)

脚本・演出:鈴木 聡    音楽:本多俊之
出演:稲垣吾郎 西牟田恵 三鴨絵里子 久世星佳 山崎 一 阿南健治 小林隆 河原雅彦

舞台は1920年代のニューヨーク。27歳の売れない小説家パーカー(稲垣)は、「いい万年筆さえあれば傑作が書ける」と信じ、デパートに万年筆を買いに行く。担当編集者にお金を借りて、たった5ドルの魔法の万年筆を手にいれる。すると、ニューヨークの小説界の大流行作家となり、プライベートも順調に。デパートで出会った店員のデルタ(西牟田恵)と恋に落ちるが、大作家の娘セーラー(久世星佳)との縁談が持ち上がる。パーカーは「彼女と暮らしたら、アイスクリームの匂いのする幸せに僕は溺れて、小説家として駄目になる気がするんだ」と、デルタを捨てて、セーラーと結婚する。わがまま放題の生活を始めたパーカーだが、ある時、大事な万年筆を失くしてしまう。それを機に彼の生活は一転し……。「魔法の万年筆」を失って行き詰まった時、変わり果てたデルタに再会。「田舎者の僕が、ニューヨークに愛されるためには、有名な小説家になるしかないと思い込んだ」と悔やむが……。

栄光をつかんだにもかかわらず、どん底に落ち、情けなくて、決してカッコいいとはいえない──しかし、それでも欲望に忠実にエネルギッシュに生きていく一人の男の姿を稲垣吾郎が、哀しくもユーモアたっぷりに演じる。誰もが一度は聞いたことがあろう万年筆の名前がついた登場人物たち、ジャズミュージシャン本多俊之によるオリジナル音楽…とおしゃれな設定で贈る“おとなのお伽噺”。


笑ったー!とにかく面白かった!出だしはちょっとかったるかったんだけど、物語が動き出してモンブラン一家が登場してからは俄然たのしく。以下ネタバレ。ケツまでばっちりネタバレ。


  • なんといっても河原雅彦さん。父帰るやらブログやらでお馴染みのこの方ですが、想像以上にやるな!という感じでうまいうまい。さすがに準主役として、前半までのコメディ要素の中心として、なんとも愛らしく阿呆パイロットを演じきっていらっしゃいました。ちょっと高めの声色も、ツッコミのタイミングも、ボケの力の抜けたテンションも、すばらしかった。ああでなくちゃ笑えないよ。吾郎さんの少しぎこちないところで笑わせる天然さとはまた違って、きちんとした技術に裏打ちされた見事な笑いでした。株がだんぜんアップアップ!
  • とにかく一番笑ったのは、一幕終盤の、セーラーとパイロットが死んだ父を呼び出そうと怒涛のやり取りを繰り出すところ。芸達者!にんにくの丸い電車に乗り込んでぐるぐるするまでの流れがさいこうでしたヨ。そして出てきたお父様の、またすてきに力の抜けたおじさま(おじいちゃま)ぶり。すぴりちゅある!笑 このモンブラン一家がとにかく好きでした。
  • 暖炉に、呪文を叫びながら、「もっと鼻の下を伸ばして!」と一心不乱に復活の粉を投げつける姉弟…じゃなかった、兄妹(どうしても逆に見えるんよね・笑)のすがたに呼吸困難になるほど笑いました。宝塚出身の久世さんの、なのに思いきり過ぎる飛ばしっぷりがすばらしい。セリフも、声が通っていて凄く聞き取りやすいし、声色も使い分けてるし、すっげーなー。
  • さまざまな人の口から「どうやって小説を書くか」「物語をつくる原動力はなにか」みたいな話しがいろいろ聞けて、その部分も私には興味深かったな。
  • 吾郎さんはね、エルマンのお店で万年筆を潰されてウワアーンと泣き崩れてるカッコウがいちばん愛らしかったデス。む、ふ、ふ。あと、おんなのひとを次々乗りかえてっても不自然じゃないのにあんなにおばかで憎めない、ってのは吾郎さんならでは、の役柄で合ってましたねv パーカーは自分勝手だけど、けっして人を恨んだり妬んだり人のせいにしたりはしないんだよね。パイロットがベストセラーを出したって知ったときもそうだし、万年筆を盗られてたって気付いたときもそうだし、奪い合ってるときも。悲愴なかんじ・嫌なかんじがしないの。しすぎないの。絶望の表現にもどこか余裕がある。裕福なかんじ、とでも言うかな。それはきっと、吾郎さんの持つカラーなのだろうな。
  • ラスト、パーカーがまさか撃たれるとはっ。会場からキャッと声があがったのと同じく、私もびくんっとしちゃったよ。んでも、その死んだあと踊り出す演出がさいっこうでした。この舞台の雰囲気に合った、あるいはそれまでのハートフルな展開すべてぶち壊しの(笑)なんて楽しい死にラスト!こんなん他の演目ではありえない。少なくともヴァージニアではありえない(当たり前)。パーカーは憎めないやつだけどやっぱり人としてひどいことをしたわけで、だから撃たれちゃったってある意味自業自得で、その展開の上にあのダンスでシニカルに笑わせるという、死んだあとの最後の部分がくっついていたからこそ私は肯定。なんだいよアレ?!??(・。・) と唖然としたあと、じわじわと涌きあがるこの人生の可笑しみよ。あっけないあっけない。ああ観れてよかったです。
  • パーカーが死んでもひとりでに彼の最後の小説「デルタ」を書き出した、結局あの万年筆は「魔法の万年筆」だった、ということでね。ファンタジーなラストもなかなかだったな。微妙にペンの動きが陳腐なところもまた笑えたにゃー。うひひ。しかし唯一デルタだけがかわいそすぎる気もするけど。登場人物がすべて万年筆のメーカーの名前、というのもかわゆくていいね。
  • ちょうどエレベーターを降りたところで、ど真ん前に次長課長の河本さんが!その隣りには友近さん。その奥に意外とちっさい森三中の大島さん。ハリセンボンも居たそうで。ゴローズパーの皆様ご招待日だったもよう。あの舞台なら、バラエティ班のひともそれなりに楽しんで観れたんじゃないかしら。と誇らしく思える演目だったことがうれしい。友近とか、ああいう舞台合いそうだけどなー。