フィッシュストーリー/伊坂幸太郎 ★★★☆

フィッシュストーリー

フィッシュストーリー

主にラッシュライフと登場人物がリンクしている、4つの短編集。最後の☆(0.5個)は、今村萌えに捧げます。うひ。

  • 動物園のエンジン … 絵描きの河原崎の、自殺したお父さんの出てくる過去の話。お父さんはお父さんでいい変人ぶり。でも死んじゃうんだよな。このお話しはジャブ程度。
  • サクリファイス … 泥棒の黒澤が、仕事で訪れたある集落の「オコモリ様」の謎を解く話。うーん、けっこう推理部分には無理があるなあ。悪事やら企みやらを知っても、結局は「だから?」とスルーしてしまう黒澤のひととして欠落している部分が描かれている。それでも黒澤はいいおとこだー。

「仕事が大事なら」と黒澤は自らに言った。「会社員にでもなれば良かったんだ。そうだろ」
仮に、これが仕事とは無関係だったとして、だから? そう思った。大して困ることでもない。

  • フィッシュストーリー … 表題作だけあって、面白い。『僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない』、そんな小説の引用でできた歌詞のロックバンドの1曲が、巡り巡って世界を救う話。二十数年前、その曲を聴いていたおかげで出会った男女。現在、正義の味方を心情に用意してきた男がハイジャックに遭遇。三十年前、売れないロックバンドは最後の1曲を録音する。そして十年後、……。音楽を好きなひとなら、「この曲すごくいいのになんで売れないんだろ!」と思ったことや、「好きだったのに解散してしまったバンド」のひとつやふたつ、あると思います。そんな、埋もれていったかに思えるなんてことない曲が、だけどこんなふうにありったけの思いを込めてつくられ、そして時代を越えていろんな人たちの人生に影響を及ぼしているとしたら。音楽好きとしては、うれしい話だったなあ。伊坂さんはほんとに音楽を愛してるんだねえ。
  • ポテチ … 黒澤再び登場。主役は、ラッシュライフにもちらっと出てきた間抜けな方の空き巣コンビの若い方(説明長い)、タダシ。今村忠司っつーのかあ。この子がほんとかわゆくて。おお振りでいうと(え?)水谷ですね!

「だって、黒澤さん、空き巣っぽくないじゃない」大西はその時、そう言い返した。
「でもさ、若葉さん、空き巣のことよく知らないでしょ」
「空き巣って、間が抜けてて、真剣にやってる割には儲けが出ないし、お人好しのイメージが強いんだけど」
「それ、俺と親分のイメージだよね」

単純に、今村の彼女の大西と今村のお母さんの会話も楽しかった。そしてラスト1ページ野球場のどきどき感が!やっぱうまい!ラッシュライフよりもこっちの方が軽やかなぶん私は好きでした。

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