一瞬の風になれ 第三部─ドン─ ★★★★☆
- 作者: 佐藤多佳子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/10/25
- メディア: 単行本
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「部長やからて、神谷さんが何でも言うことないですよ。鍵山のことも、一ノ瀬さんに言わしたらええやん」
「何を言わすの?」
「何でもええんです。全部、神谷さんがしょいこむことないて言うてるんです。先輩らは、ほんまにええコンビで仲良しで。そやけど、やっぱ神谷さん、損してますよ」
損ねえ……。一度も考えたことない。あいつといて、損とか得とか。連といるだけで、どれだけ大きなものが俺の中に生まれてくるのか。
「いいんだよ。俺は倒産していてもね」
ジョークにして言った。
「でも、やっぱ、いくらでも貸してやれるくらい、損してもビクともしないくらい、強力になりたいね」
タフな男に……。
桃内は丸い目を心なしか大きく見張った。
「とりあえず、走ってナンボだ、俺たちは」
後半の競技本番は、超盛り上がる。短い距離だけど、1日であんなに何回も走ったりして陸上ってほんとにたいへん!と素直に感嘆した。新二目線だからここまですがすがしかったんだろうけど、逆に天才肌の連からとか、鍵山と桃内のその後とか、仙波も北見も気になるし、周りの子たちの物語も読んでみたい。健ちゃんのリハビリと、谷口との恋愛はどうなったのだ(笑)まあ、そのへんを消して新二の闘いに絞ったほうが効果的だったと思うけど。三部まで読んでようやっと真価がわかる本、一部二部があるから三部が活きる。一部で読むの止めなくて本当よかったです。読むときは三巻一気をお勧めします。青春アレルギーがない方はぜひー。
- 作者: 佐藤多佳子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/24
- メディア: 単行本
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新二と連についてまだ言い足りないので(笑)、もうちょっと。
「なんか、おまえって、もしかして体力ついてんじゃないの?」
俺は連に言ってみた。
「そうかもね。少しはねえ」
連は力の抜けた返事をする。
「長いことやってますからねえ」
なんか、マジで力抜けるんだけど。
「あんたは、なんつーか、こう、異様なオーラを出してますね」
連はふざけた口調でそんなことを言った。
「今日の練習後に地球が消滅する……みたいな」
「何それ」
「見てるだけで疲れるんだけど」
「悪いかよ」
「悪いよ。こっちも手ェ抜けなくなる」
連は真顔でそう言った。
なんかドキリとした。
連がマジで練習したら、こいつ、いったい、どこまで行くだろう?
「でもさ、ほんとにアリかもしれないんだぜ」
「おい、神谷。おまえはバケモンだな。どうなってるんだ。この調子で伸びていったら、どうなるんだ?」
どうなるんだ? どうなってやろうかな?
「おまえらは、うまいこと二人そろったなあ」
みっちゃんは、俺らの顔を交互に見て、しみじみとつぶやいた。
「なんか、こういうのは、偶然ってより必然って感じがするな。運命的だな。神谷がいなけりゃ一ノ瀬は続かなかっただろうし、一ノ瀬がいなきゃ神谷はここまでは伸びなかったな。いいコンビだ。おまえらは」
いいコンビは顔を見合わせた。
目が合うと、やっぱり、どっちも笑っちまった。なんかね、肩組まされたり、運命とか言われちゃったり、変だよね。でも、みっちゃんが言ったことは、ずっと俺も思っていたよ。
結論。ライバルさいこー!新二と連がすばらしい配置でした。新二目線だからあんまりわかんないけど、連はずっと新二を見ていて、才能を見抜いたのかサッカーから陸上に誘い、誰よりも負けたくないと思ってる。新二は連に追いつきたいと思いひたすら努力し、連は新二が頑張ってるのを見て何かを変えられる。そんで二人でかけっこするのだ。人から影響されること、自分ひとりで突き詰めること、負けたくないと張り合うこと、一緒に走りたいと寄り添うこと、そのどれもが過不足なくさわやかに描かれていてたいへん満足です。ほんとよかったねあんたら……。文庫になったら全巻揃えて買お。
漫画にもなってるんだよなー、これはドラマよりも漫画向きかもしんない。