こころ/夏目漱石 ★★★★

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前回前半を読んだのの続き。読了。はああ、先生かなしいなあ。過去の親戚からの裏切りのせいで屈託ができて、その自分のサガとお嬢さんへの恋情のために親友Kを裏切ってしまう。墓を毎年参り、自ら縛られた一種の呪い(妄執?)から逃げ切れず、自分を慕う「私」との交流を契機に自殺してしまうまで。先生もKも暗いしナイーブ。明治の男はたいへん、だけど陰鬱さの放つ色気とミステリーに惹き込まれる。生き続けること、その連綿と繋がってることの重みと危うさを感じさせる。
それにしても文章がかっこいい!

私はちょうど他流試合でもする人のようにKを注意して見ていたのです。私は、私の眼、私の心、私の身体、すべて私という名の付くものを五分の隙間もないように用意して、Kに向ったのです。罪のないKは穴だらけというよりむしろ明け放しと評するのが適当なくらいに無用心でした。私は彼自身の手から、彼の保管している要塞の地図を受け取って、彼の眼の前でゆっくりそれを眺める事ができたも同じでした。
Kが理想と現実の間に彷徨してふらふらしているのを発見した私は、ただ一打で彼を倒す事ができるだろうという点にばかり眼を着けました。そうしてすぐ彼の虚に付け込んだのです。

ここが秀逸。すきすき。これが前半で先生が私に語った、「かつてひざまづいた人を今度は踏みつけにする」の意なわけで。そして先生は自分がそうしたから、また自分もそうされるに違いないという呪縛を感じていたんでしょうかねえ。そうなる前に、「私」に裏切られる前に、自ら命を断ったと。今回の読書ではそういう解釈。けどたぶん、読むたびに感じることが違いそうな、幅のある本だと思った。


「先生と私」「先生とK」の関係の同性愛的捉え方も有名ですよね。先生→Kは、あまりに違う性格をしていながら惹かれ、それ故に妬み、深層心理では好きだった んだけど気付けなかった、んじゃないかという説をわたくしは支持します!(何だ)

たびたび繰り返すようですが、彼の天性は他(ひと)の思わくを憚かるほど弱くでき上ってはいなかったのです。こうと信じたら一人でどんどん進んで行くだけの度胸もあり勇気もある男なのです。養家事件でその特色を強く胸の裏(うち)に彫り付けられた私が、これは様子が違うと明らかに意識したのは当然の結果なのです。
私がKに向って、この際何んで私の批評が必要なのかと尋ねた時、彼はいつもにも似ない悄然とした口調で、自分の弱い人間であるのが実際恥ずかしいといいました。そうして迷っているから自分で自分が分らなくなってしまったので、私に公平な批評を求めるより外(ほか)に仕方がないといいました。

でもK→先生はたぶん途中で気付いたね。ふたりで意味もなく炎天下でろでろの房州の旅とかしてんだよー。Kの気持ちを薄々察しつつも(無意識に)いじわるするせんせいは罪なやつだよ。

ある時私は突然彼の襟頸を後ろからぐいと攫(つか)みました。こうして海の中へ突き落したらどうするといってKに聞きました。Kは動きませんでした。後ろ向きのまま、ちょうど好い、やってくれと答えました。私はすぐ首筋を抑えた手を放しました。

「こころ」、誰か声優さんが朗読とかしてくれてないのかな……と思ったらこんなのあった。→お話しPodの広場 朗読・聴きくらべ「こころ」夏目漱石。心尽さんの声が渋くてかっこいいけど先生こんな太い声じゃない気がするw
検索中にちらーっと出てきたのは、三木眞一郎さん・小西克幸さんの「山月記」とか石田彰さんの「雨月物語〜菊花の約(ちぎり)〜」とか(<うずらっぱシリーズ)。あと音の本屋さん「ぶんぶん」。っていうかゆうきゃんがやってるのもあった!朗読 浜田広介 名作選集(キャストインタビュー)

朗読 浜田広介名作選集~「泣いた赤おに」「むく鳥のゆめ」「りゅうの目のなみだ」~

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だいぶ話しが逸れました(笑)阿呆なことばっか言ってきましたが、「こころ」の登場人物が静かに去っていくラストはとてもとてもものがなしい。さすがの名作です。

私は突然Kの頭を抱えるように両手で少し持ち上げました。私はKの死顔が一目見たかったのです。しかし俯伏しになっている彼の顔を、こうして下から覗き込んだ時、私はすぐその手を放してしまいました。慄(ぞっ)としたばかりではないのです。彼の頭が非常に重たく感ぜられたのです。私は上から今触った冷たい耳と、平生に変らない五分刈の濃い髪の毛を少時(しばらく)眺めていました。私は少しも泣く気にはなれませんでした。私はただ恐ろしかったのです。

書き出し:
私はその人を常に先生と呼んでいた。
書き終り:
(略)私が死んだ後でも、妻が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、すべてを腹の中にしまっておいて下さい。」