犬身/松浦理英子 ★★☆

犬身

犬身

んー。雰囲気はちょっとホラーぽかったりもして、犬になるという題材のわりにファンタジーじゃなくていいんだけど、話が陰鬱すぎる…。犬になって好きな飼い主と生きるお話、というよりは、その飼い主である梓が自分の家族からの呪縛をどう乗り越えるか、のほうに比重が傾いてる。そこに、犬の存在がさほどうまく噛み合ってない気がする…。性同一性障害ならぬ「種同一性障害」や「ドッグ・セクシャリティ」という言葉が出てくるように、一般的な男女の性愛ではない感情や欲求やあり方をフサを通して描こうとしている、んだろうな。玉石家のラストもアレだし、なんかもやもやするわー。房恵を犬に変えてくれる狼の朱尾が意地悪だったりおどろおどろしかったり、魅力的なキャラだったんで、そこんとこはもっと読んでみたかった。犬になりたーい!というフサの犬化願望も読んでて面白かった。

タウン誌「犬の眼」の編集者、八束房恵は、人を愛したことがなく、自分は半分犬なのでは、と思うほどに犬を愛している。取材で知り合った陶芸家、玉石梓と再会した房恵は、自分を負傷させてまで飼い犬の安全を守った彼女に惹かれ、交流を深めるうちに「あの人の犬になりたい」と願うようになる。房恵に興味を持ち、自らを魂のコレクターだというバーのマスター、朱尾献と死後の魂を譲り渡す契約を結んだ房恵は、オスの仔犬、フサとなって梓と暮らしはじめるが、梓の家族関係がいびつに崩壊していることを知る。梓を苦しめる人間にできるのは、吠えることだけ。そんな自分に無力感を感じながらも、フサは、何も求めない、穏やかな愛を与えることで、犬なりに彼女を守ろうとする。飼い犬のように愛し、愛されたい房恵=フサは、梓の、これまで誰も入り込めなかった心の深みに入り込めるのだろうか? セックスの介在しない愛は、房恵自身を、満たしてくれるのだろうか?