告白/湊かなえ ★★★


やっと図書館で順番が回ってきたので。第29回小説推理新人賞(一章目の「聖職者」)、2009年本屋大賞。一章ごとに一人称の語り手を変え、事件に関わった人間の心情が次々と告白されていく。子どもを殺された教師→クラスの委員長→犯人Bの姉(実質的には母日記)→犯人B→犯人A→教師。視点が変わるので飽きさせないし、少しずつ新しい描写が出てくるので最後まで一気読みしました。幼すぎる精神が狂気に繋がり、更に弱い対象の命を奪う。重いなあー。実際の事件もいっぱい引用されていて、今の世の中への鬱憤というか怒りというか、それをエンタメ(ミステリ?)に再構築するとこうなるのかもしんない。2章目の委員長が一番まともなのかと思ってたらそうでもなくって、結局出てくる人物みんなが常軌を逸しているという状態になるってのが二重三重に構造してあって面白かった。ほんと、人を殺してもなんとも思わない意識って、人を裁くって、なんなんだろうって思う本でした。人間のえぐいところばかりを集めたような。でも桐野夏生よりはファンタジー寄りなので読みやすいといえば読みやすい。
復讐の手段として牛乳にアレを混入するのはちょっといい方法かもしれない、と思ってしまった私も十分グレーゾーンであると我ながら思う…。教師の章も、ときどき迷いを見せながらそれでも教師ゆえの真面目さで復讐を完遂しようとするとこが余計にこわくて。これができてしまうってのは、先生も壊れてしまってるってことなんだなと。読み終わったあと、たまらなく悲しい気持ちになりました。

「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
終業式のホームルームで、クラスの担任教師が学校で事故死した娘の事件について語り始めた。静かな口調で告げられる真相、クラスに広がった動揺、犯人の少年たちへの視線。そして教師は、さきほど生徒が飲み終えた牛乳パックにあるものを混入したと告白する……。

著者インタビュー:http://books.rakuten.co.jp/RBOOKS/pickup/interview/minato_k/

 ほとんどの人たちは、他人から賞賛されたいという願望を少なからず持っているのではないでしょうか。しかし、良いことや、立派なことをするのは大変です。では、一番簡単な方法は何か。悪いことをした人を責めればいいのです。それでも、一番最初に糾弾する人、糾弾の先頭に立つ人は相当な勇気が必要だと思います。立ちあがるのは、自分だけかもしれないのですから。でも、糾弾した誰かに追随することはとても簡単です。自分の理念など必要なく、自分も自分も、と言っていればいいのですから。その上、良いことをしながら、日頃のストレスも発散させることができるのですから、この上ない快感を得ることができるのではないでしょうか。そして、一度その快感を覚えると、一つの裁きが終わっても、新しい快感を得たいがために、次に糾弾する相手を捜すのではないでしょうか。(中略)愚かな凡人たちは、一番肝心なことを忘れていると思うのです。自分たちには裁く権利などない、ということを……。

↑が、最近の世間の風潮やネットでの炎上の本質の一面をうまく表現してるような気がします。