妖怪アパートの幽雅な日常2/香月日輪

半年間の寮生活を経て、寿荘に舞い戻ってきた夕士。妖怪、人間入り乱れての日々がふたたび始まった。ある日手にした「魔道書」の封印を解き、妖魔たちを呼び出してしまった夕士は、除霊師の卵・秋音に素質を見込まれ、霊力アップの過酷な修行をするはめに…。

ちょ!親友同士が付合い出したよ!(違う・笑) いやしかし、そう取ってもいいんじゃないってくらいの夕士と長谷のらぶっぷりであった。ごちそうさまです。明らかに秋音ちゃんより長谷のほうが好きだろ夕士も!読みながらニヤニヤニヤニヤしちゃったじゃないか…。二人がバイクに2ケツで不良と戦い始めたときはどうしようかこのお話は…と思ったけど、後半はちゃんと、もう家族がいない夕士の新たな一歩って描写があってよかった。面白いじゃん!
どうでもいいけど作者さんはB'zのファンなのかな。イナバユーシ…。

「そういうフツーの奴がさ、目の前で幽霊や妖怪を見たら……そりゃ、ビビるって」
「…………」
「お前だってビビったろ、最初は?!」
 そうだ。洞窟風呂で大家さんを見て、俺はひっくり返った。
「お前……ひょっとして、ずっとビビりっぱなしだったのか、長谷?」
「いきなり妖精やグリフィンや幽霊や妖怪を見て、ビビらねぇ奴がいるもんか。あの日は一睡もできなかったぜ?!」
 そう言って、長谷は笑った。
「ああ………」
 俺は、長谷を思い切り抱きしめた。
「そうだよな、そうだよ……!」
 今こそ、俺は救われた気がした。
 幽霊を見ても妖怪を見ても全然平気だと言われるより、正直にビビってくれて安心した。それがふつうの反応だからだ。そのうえで、長谷はこのアパートを受け入れてくれたんだ。今こそ、それを実感できる。俺は胸がいっぱいになった。泣きそうになった。
「見慣れない奴がいてびっくりするけど、ここはいいところだ。なあ、稲葉」
 抱き合った俺の耳元で、聞いたこともないような優しい声がした。こいつの優しい声なんて、気味が悪くて笑えてくる。
 笑ったら……涙が零れた。

「でもお前はさ、稲葉。すぐ目の前にある現実とチマチマ戦い続けてたんだ。泣きわめきながらな」
「……泣きわめきながらは、余計だ」
 闇の中で、長谷がクスリと笑う。
「お前が泣きわめくのが、愛しかったよ」
「…………」
「どうしようもない現実の前で、お前は必死で考えて、悩んで、絶望したり怒ったり。でも泣くまいと踏ん張ったり……。それが、その人間らしさが愛しかった。お前は本当に”等身大の人間”で、それがとても正しく、美しく見えた」
 長谷は体を起こし、俺の腕をとって自分のほうへ引き寄せた。また見たこともない表情をした長谷の顔が、すぐ目の前にあった。
「俺はお前を通じて、自分の心のバランスをとっていたのかもしれない。だから俺は、お前を俺の王国へ誘わなかった。本当は……一番そばに置きたいんだぜ? 俺の右腕に…」
「…………」
 (中略)
 俺は笑った。きっと泣きそうな笑顔だったろう。
「愛しいとか言うなよ。親にも言われたことないのに……。テレちまう」
 長谷は笑った。そして、言った。
「それなのに、だ」
「?」
「お前は、”妖怪アパート”に住んで、お化けに囲まれて、今や”魔道士”様だ。どうよ、コレ? 現実離れもはなはだしいぜ」
(中略)
 クリをはさんで、俺たちはガッチリと握手した。新しい力が身体中に満ちる気がする。前とは違う風が吹く。そんな感じだった。心から嬉しくて満ち足りて、つないだ手を離したくないと思った。
「なあ、稲葉……」
「ん?」
 長谷はなにかを言いよどんでいた。言葉を選んでいるのか。考えがまとまらないのか。俺はその先が聞きたくて、じっと待った。
「俺らさ……」
「うん」
 長谷は、俺のほうを見ていた。俺も長谷を見た。長谷は、クリの頭をなでながら言った。
「なんか、家族みてぇ?」
「……っ」
 その言葉に、不覚にも感動してしまった。不覚にも。長谷が次に言ったセリフがこれだ。
「俺がパパで、お前がママな」
「…………………」
 そのデコに、裏拳を入れてやった。
「下んねーこと、言ってんじゃねえ!」

ね?ラブラブでしょ?長谷も実家でさみしい思いしてたりするのかなあ。