AGE 楽園の涯―グラスハートex./若木未生
グラスハートの番外編で、5つの短編が入ってます。昔の尚やら藤谷やらその交友関係や挫折、出会いなんかが読めてファン的にはうれしい一冊。
- AGE… 高校時代の尚とその友達関係、ギターを始めるきっかけなんかの話。同級生の智孝くんの視点。89年第13回コバルトノベル大賞佳作入選の、若木さんのデビュー作です。ちょっとわかりにくいけどさすがにうまい。昭和っぽい青春!
- 楽園の涯… 同じく智孝くん視点で、大学生時代、尚と藤谷の出会いの話。藤谷がちょうど休業中のときなんで、そのまますぐに繋がるとかはなくって、尚は尚で自分のバンドを解散させるまで苦労してんだなー。
- オクターヴ 楽園の涯2… 尚視点。スタジオミュージシャンやってて、井鷺と一緒に仕事してて、藤谷の過去を知る話。尚の一人称ってこんな感じなのかーって、思ったより屈折してて驚いた覚えが。藤谷が思いなおして尚を誘ってくるんだけど、一度は断ってるという。どうでもいいけど藤谷くんの誘い文句がなんかすごい。「あのう、突然なんだけど、突然で悪いんだけど君にお願いなんだけど一度でもいいんだけど君の」「君のギター弾いてよ、僕のために弾いてよ!!」
- 素晴らしい日々 楽園の涯3… 藤谷の大学の友達で漫画家の土岐くん視点。グラスハートの漫画版でかなりエッヂが効いてます。わかりすぎてみみがいたい。それにしても藤谷先生ってちゃんと友達いたんだ…。
- New Song… 尚の昔の知り合いの元バンドギャルギタリストが街中で尚に偶然会う話。
「待ってますから、ほんとに、ガンバッテクダサイ。ガンバッテクダサーイ」
俺は受話器を放りなげて電話を切る。こいつは俺が前に、「現に充分頑張ってる当人にむかって『頑張れ』と言わないでくれ」と頼んだのを憶えていない。……俺は病気かもしれない。鬱的傾向にある人間を励まして頑張れと言ってはいけない、という知識だけはきちんと俺にもある。……だから何だ。
俺の前には今。
まだ描かれる途中の線がある。
まだ。
空白のまま俺を見あげている。
四回転ジャンプを。
跳んだら。
次は、四回転プラス半回転。
その次は、五回転。
のぼりつめてゆく頂点のその先を。
跳んだら足が折れる。衝撃と重圧を吸収する足首は折れる。人体構造を無視した運動に腰は砕ける。それでも俺は跳ぶ。
跳べるからだ。
まだ跳べるからだ。
五回転六回転七回転を……。
「ナニヤッテンダ俺?」
ふっとわれにかえって俺が言う。
なにをやってんだ?
「宿命だよ」
どこか冷たいような言い方で藤谷が答えた。
「君は、それを描くんだよ」