妖怪アパートの幽雅な日常 10/香月日輪


いよいよ最終巻。最後に長谷のお爺さんの事件がくるわけですね、なるほど。覚悟を決めて長谷を助けた夕士はかっこよかったです。そのために大事な時期の半年を永遠に失ってしまったというのは代償としてたいへんなものだなあ、とちゃんと伝わってきた。一気に10年後に飛んだ後日談はサービス的なものですかね。妖怪アパートに居ながら、それでも普通の人間として生きてく主人公を描くのは大変だったと思います。なんだかんだで楽しく10冊読んだなー。

「ご主人様!」
 フールが、絶叫した。
 長谷が、倒れていた。
「長谷?」
 その身体が、みるみる黒い霧に覆われてゆく。
「長谷!!」
 俺は長谷の身体にすがった。
「長谷! 目を開けろ、長谷!!」
 俺は長谷の頬を張ったが、反応はまったくなかった。こうしてるあいだにも、どんどん霧が広がってゆく。
「な、何が? 何が起こったんだ?」
 俺には、何も考える余裕がなかった。フールが何か言ったようだが、まったく耳に入らなかった。

 長谷が、死ぬ……!
 このままじゃ、長谷が死ぬ!

 そう思った時には、俺は長谷の胸に手を当てていた。
 どれくらい俺の力を注いだらいいかわからない。そんなコントロールなんか、今はとてもできない。そんな時間はない。とにかく、ありったけの力を……。
「…………」
 フールが、祈るように手を組んで、俺の前に立っていた。
「…………」
 ほんの少しだけ、困った顔をしていた。

 違うよ。俺は、死ぬつもりなんてないぜ?