聖なる黒夜(上)/柴田よしき ★★★☆

 

東日本連合会春日組大幹部の韮崎誠一が殺された。容疑をかけられたのは美しい男妾あがりの企業舎弟…それが十年ぶりに警視庁捜査一課・麻生龍太郎の前に現れた山内練の姿だった。あの気弱なインテリ青年はどこに消えたのか。殺人事件を追う麻生は、幾つもの過去に追いつめられ、暗い闇へと堕ちていく―ベストセラー「RIKO」シリーズから生まれた究極の魂の物語、ついに文庫化!上巻に本書サイド・ストーリー『歩道』を書籍初収録。

思ったよりストレートにほもが。そしてちゃんと殺人事件ミステリーもの、刑事×ヤクザものだった。じわじわと明かされる過去、二人の間の緊張感、面白いです。練と麻生はもちろんのこと、練を拾ったヤクザの韮崎、麻生の剣道部の先輩で同僚のゲイな刑事・及川もかなりいいキャラ。練の運の悪さ、運命の転がり方はすごいよね。もともとあった資質もあいまって悲惨だ…。刑務所で掘られたことなんかより、警察検察裁判で受けた扱い、兄の自殺、がもっともこたえたんだろうという描き方もいい。それにたぶん、初めてやられたのって取調室で警官に、っぽい…?麻生の同僚に…まだ自認したばかりなのに、これまじショック。
その書き下ろしの短編も泣ける…この客って麻生だよね?初恋の男にパクられて、その言葉を鵜呑みにして自白して。冤罪ものとしても、麻生みたいな冷静で優秀な刑事でさえも間違った犯人をあげてしまうというとこにより一層のこわさがあると思った。下巻が楽しみ!まだ練が全部仕組んでる可能性まで残ってるし、誰がどう関わってるのか、わくわくです。
西谷監督、これを映画化かドラマ化してくんないかなあ。いま話題の冤罪ものだしいけると思うんよ。白夜行ができるんやから、あれな描写はぼかせば全然いけるはず。

「知りたいんだろ、あんた。俺と誠一がどこで、どんなふうに出逢ったのか。知りたそうな顔してる」
「そんな顔してない」
「してるね。あんたは知りたいんだ……俺があれからどんなふうに堕ちて、どんな底を這い回ってたのか」
「そんなもの知りたいわけ、ないだろうが。まっぴらだ」
「知ってもらわないとな」
 山内は、麻生の背中に肩をぶつけるようにして前に進ませた。
「そのくらい、知ってたっていいはずだぜ。それがあんたの仕事だったとしても、あんたは俺の人生をその手でひん曲げたんだから」
「曲げたのはおまえ自身だ」
 麻生は言ったが、山内は黙って自分も煙草をくわえた。