【 屋上の狂人 】 完レポ

河原雅彦演出、草なぎ剛主演でシアタートラムで公演された舞台の観たままレポです。
続きまして屋上の狂人です。こちらの演目は動きで示す部分も多いし、コメディっぽくするために付け足された台詞があって脚色が多少ある、そのへんをわかりやすく伝えられたらいいんですけど。むずかしい…! こういうとき、イラストが描けたらな、と思うです。


ト書きにあたる行動の説明部位の形容詞や助詞はあきらかに私個人の受けた印象に拠っています。
そしてもちろん公演自体も回によって差があると思います。舞台は生ものです。

だから、

※こんなふうに受け取らなかったひとももちろんいると思うので、そのことはご了承ください。
※あくまで私個人の観た舞台「屋上の狂人」です。




◆屋上の狂人 レポ完全版◆

原作(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/%7Ematsuoka/Kikuchi-lunatic.html)を読んでからどうぞ





父帰る」終演後、10分の休憩。

舞台は下方3分の2が白いスクリーンに覆われている。
裏で舞台転換の物音。
BGMの明るい音楽。けっこうロックめな感じ。

そうこうするうちに、1ベルが鳴る。

次のBGM。
それが徐々に消え、かかるのは
「とぼけた顔してばばんばーん、ばんばんばばばばばばばばん」のムーディ女性歌唱バージョン。
ほんの2フレーズだけ流れたあと、消えていく。

そして「屋上の狂人」の弾くような軽快なテーマ音楽が流れ出す。




客電落。

大きくなる音楽。



闇の中、空模様の背景がせり上がってきてセットされる。
青い空白い雲に、「屋上の狂人」のタイトル文字が映し出され。

徐々に白めの照明がつく。
夏の夕暮れ前っぽい、15時か16時くらいか?

ステージ中央〜右よりにある大屋根の中心に、白い着物を着た人影。
照明がぱあっと照らし出す感じが抜群で、狂人が浮かび上がる。
白い着物、裾はまくって下の同じく白いズボンが見えている。帯は黒。裸足。髪はツンツンもしゃもしゃと立っている。
動かない右足を伸ばし、左膝を立てている。

はじめは無表情、光りが当たると徐々に目を細め笑んで、
あはは〜と力の抜けた笑顔で空を指差す。口が動く。ひたすら無心の明るさ。



<父登場>
<父に呼ばれて吉治登場>

父「早よう降りんかい!義やあ!」
大声張り上げる父の声に、やっと天空から視線を下方に移した義太郎がぽわんとした声で言う。
義「……………なんやあ」
父「なんややない、はよ降りてこい、そんなとこおったら暑気で死んでしまうぞ。降りてこんと下から竿で突つくぞっ」
義「いややあ、お空の上でおもしろいことがありよるんやもの。金毘羅さんのぉ天狗さんのぉ正念坊さんが、雲の中でおどっとるー。
  わしに来い来いゆうんやあ〜」
楽しそうに、きゃらきゃらと笑う義太郎。
こいこい、んところで屋根に座ったまま、赤ん坊がするように両腕を上下にくいくいと二度振る。
その仕草がやばい。グーの拳がかわいい。

父「阿呆なこと言いな!」
空を見ながらつられてふらふらと立ち上がる義。
義「おもしろうやりよるわい!わしも行きたいなあー、待っといでえ〜っ」
ここはけっこう棒読み 笑。
足を引きずりながらカニ歩きで横に移動し、大屋根の左の小屋根に器用にひょいっと飛び移る。

父と吉治のコミカルなやり取りを通して、そして屋根の上での可愛い義太郎の様子、どんどん場が明るくほぐれていく。


<詳しくは原作をお読み下さい>


地面での父と吉治の会話の間も、義は空を指差して笑ったり、ちょこまか。

父「気ちがいでも家の中にじっとしとるんならええけど、高い所へばっかし登りやがって、まるで自分の気ちがいを広告しとるみたいや」
そのタイミングで、小屋根で正面を向き、「おほほほほほーっ」と奇声をあげる義太郎。
会場 笑。父も 苦笑。
父「勝島の天狗気ちがい言うたら高松へまで噂が聞こえとるて末が言いよって」
またそのタイミングで、今度は向かって左の空を見上げながら、
義「あーそうかあ、そらええなあ」
と神様との会話でのんびり相槌を打つ義太郎。
常人をからかうがごとくの無邪気な振る舞いにウケる。コメディの王道!

狐が憑いてるのか猿が憑いてるのか、頭のおかしい義太郎の今までの所業がおもしろおかしく、そして愛おしさを滲ませて語られる。
<詳しくは原作をお読み下さい>

猿が憑いてるんじゃないかってくだりで、義は着物の袖をつかみ神様に見せるようなしぐさ。ついには左の小屋根の三角の尖がった峯に片足で立ち、ふらふらしつつもかたわの右足を浮かせ、脅威のバランスを取って笑わせる、

_○ ニヘラ〜
_|\
 │ ,,
 /\
 屋根

↑こんなポーズで、しかも前傾姿勢。変な顔。
腕をばたばたーっとさせたり。ぐらぐらしたり。見てるこっちがハラハラ。

父「義太郎!降りんかい!」
バランス芸に飽きたのか再び大屋根に戻った義、今度は夢中で、腰を据えがに股で、着物の袖をつかんだ両手を左右に振りつつ高速移動。
おちょくってる感じで超おもろくてかわゆい動き!
父「………屋根へ上がっとると人の声は聞こえんのや、見てみい、まるで夢中になっておるわ(苦笑)」

この後も、屋根の右前のへりに漂ってるらしき何かをうつむいてじーっと見つめたり(ちょうちょ?)、
したらその物体が上に舞い上がったらしく、指差しながら「あー」と口を開けて目線を右斜め上に移動させ、またにこにこしたり。
カラスの声が聞こえたら真似っこして「カア!」「カアァァ!」と高い声・ぶさいくな顔で鳴く。
ほんと夢に見そうなすごい顔なの。それこそ狐天狗かってくらい。
父と吉治の会話の途切れに合わせて、ほうきがけ@レレレのおじさんのような妙な動作をして屋根の中央に戻ってくる。

父が吉治に「屋根に上がって引っ張り降ろしてこい」と命じて吉治退場。



<入れ替わりに隣人・藤作 登場>

藤作は漁師らしく、全身黒くて、短パンにハッピのようないでたち。
やたら露出が高くセクシー!なぜか赤いおっぱいが気になる 笑。

父と藤作が説明がてら今までのいろんなエピソードを話す間も狂人はさまざまな演技を見せており目が離せない。
シコ踏んだり、踏ん張って左右の腕を大きく振るアクションをしたり、公演によって微妙違うアドリブ。

金毘羅さんの巫女を勧められる。<詳しくは原作を(略>



<藤作退場>

<吉治が屋根に梯子をかけ、捕獲に>


「あっつ!」と焼けた瓦に触れて難儀する様子を見せたりして吉治細かい演技。
吉治「若旦那!私と一緒に降りましょう、こなな所におると晩には大熱が出るからな!」
吉治のこの言い方がまたいいんだよなー。

義「いややあ、天狗さまがわしにおいでおいでしとるんや、」
ほわわんとしていた様子から一変、急に、甲高い声で物凄い早口に怒鳴る義太郎。
義「おまえやこしの来る所じゃないぞなんと思うとるんやっ!(超早口)」
これがさっき吉治の言っていた「えらいハラを立てる」さまのよう。
言葉というよりは勢いと声音で笑かす感じなのでセリフは聞き取りにくい。
ある公演では夢中で言い過ぎて、剛の顎からだら〜っと見事に涎が垂れておりました 笑。

しばらく屋根の上で吉×義のおっかけっこ。
呼吸、動き、ぴったりです。高所で危ないし、よほど稽古したんだろうな。

義は遊んで貰ってるみたいな笑みを浮かべ、捕まえようとする吉治をかわしついでに手で押して大屋根にずっこけさせる。
吉治「うおおおっ」とコミカルな雄たけび。うまい。
義自身はひらりと左の小屋根へ。
追って吉治がそろりと近づき、
吉治「おとなしく、しとってくださいよ、わかだん、なっ」
で呼吸を合わせ、足元を捕まえようとした吉治の腕を、奥の屋根に飛び移ることでよける義。
一瞬バランスを崩した吉治が屋根に座り込んで
「こわいぃっ!」 笑。

吉治「私もう降りますっ」
父「降りてきたら晩飯は抜きやぞ」
吉治「そんなあ〜」
という地面の父との会話がありつつ。
そんな屋根にへばりついている吉治をよそに、また楽しそうに空を仰ぎながら大屋根に戻る身軽な義。

大屋根で「あ、あれなんや」と気をそらそうとする吉治の古典的な手に一瞬引っかかり右上の空を見るも、
すぐに気付いて足を引きずりつつ、捕まえようとした吉治をかわしてひょこひょこ器用に左に移動する。
嬉しそうな笑顔、額に汗。
そのままべたーっと瓦屋根にほっぺたをつけて寝転び、
義「わしにちょっとでも触ってみい、天狗様に引き裂かれるぞお!」

次の瞬間、
あっさりと吉治の手が義太郎の着物の首ねっこをつかまえて、

義「んなあー」  (日によっては「にゃあー」だったり「あー」だったり)

鼻にかかった、間抜けた声を響かせる義太郎。いちばんの笑い所。

結局捕獲されて、義太郎は立ち上がり、おとなしく、笑みを浮かべながら梯子に向かう。
吉治がふらつく体を支えてくれる。
吉治「そしたら降りましょ若旦那」
下で「あー良かった良かった」とうちわで顔を扇ぎつつうろうろしてるおとうたんに、
吉治「旦那さん!何ぼうっとしてるんですか!下で迎えてあげてくださいよっ」
義に対してと違い強気で申しつける吉治。あんた下男ちゃうんか 笑。

義「あー、きちに捕まってしもたわあ」
にこにこ笑って言いながら、ぐりぐり吉治の坊主頭を撫でくり回す義太郎。

大屋根と左前屋根のあいだに吉治が立てかけてのぼってきた梯子を使って降りる。
その間も動かない片足はつかないように一段飛ばしで、えっちらおっちら降りるのが可愛い様子。
腕の筋肉をかなり使いますよあれ。
吉治に言われ、下でおとうたんが心配そうにうろうろして待ってくれている。愛だなあ。



<義太郎屋上から降りて、舞台右前の木の長椅子に座る>

地上に降りてきた息子の手を父が引く。帯に挟んでまくりあげてあった着物の裾を後ろから直してやる。
その間も頓着せず一目散に長椅子にひょこひょこ歩いている義太郎。
扱いはまるで3歳児だが姿は白く清らかな24歳。天上人がおりてきた!って感じで胸の動悸が! 笑

<母登場>

義「おとう、どうしたから下ろすんやあ、今ちょうどわしを迎えに、五色の雲が舞いさがるところであったんやのにい〜」
間延びした、義のセリフ。
椅子に座ってまた空を指差しぽやーっと言う長男の右に立ち、母が額の汗を手ぬぐいで拭ってやる。母は口と態度は悪いのだが、やっかい者やけど罪のない息子を愛してる様が伝わってくる。
にこにこして目を細め、おとなしく拭かれている義太郎。視線はずっと上の空。熱い中屋根に登ってたから暑気に多少やられてるんだな、と。
父「あほ!いつかも五色の雲が来た言いよって屋根から飛んだんやろう、それでそのとおりかたわになっておるんや」
義太郎は汗で顔がちょっとてかってます。
おとうたんが左側からうちわで扇いでくれている。その風を目を閉じて気持ちよさそうにほやーっと受ける顔がやたらうつくしい。



<藤作 再登場>
<巫女を連れて>

巫女は赤と白のおなじみの衣装。

藤作「旦那さん、これがさっき言うた巫女さんや」
父「ああ、これはこれは、こんにちわ」←これちょと面白かった。言い方が可愛くみんな一斉に頭を下げている。
巫女に長男の病状を説明する父。
巫女「いつからこんなご病気でござんしたかな?」
父「はあ、もう生まれついてのことでしてな。小さい時から高いところで登りたがって、床の間へ上がる、仏壇へ上がる、木登りを覚える」
合間合間に母が「あがる」「あがる」「きのぼり」と語尾に繰り返し、漫才のようにいい間で面白い。

<詳しくは原作を(略>

父「それで天狗様やとか神様やとかと、話しているような独り言を言いますのや」
境遇の説明が終わりかけたあたりで、お空の出来事に夢中になりすぎて右腕をいっぱいに伸ばしていた義が、バランスを崩し長椅子の右からばたんっと地面に転げ落ちてしまう。
会話の終了と展開点として見事なアクセントの演出。うまいなあ!
義は椅子から派手に落ちてからも天空から目線を外さず、にこにこ笑ってて、頭の弱い様がよく出てました。
助け起こしてくれるのはやっぱり吉治。大活躍。両脇から腕を入れ、がっしと着物の胸を掴んで、後ろから抱きかかえるようにする。

<祈祷が始まります>

巫女「どれ私がご祈祷をしてさしあげます。よくお聞きなさい!」
歩み寄り、椅子に座った義太郎の頭に手をかざして祈祷を始める旨告げている。
巫女「私は当国の金毘羅大権現様の使いの者じゃけに、私の言うことはみな神様の言うことじゃ〜」
知らん顔で上の空だった義が、ふと「こんぴら」の単語を聞き留めたのか引き戻されて巫女を見上げる。
喋っている巫女の言葉を遮り、
義「金毘羅さんの神さん言うて、おまえ会うたことがあるケ?」
あっけらかんと聞く義太郎。
虚を突かれ、一瞬黙り込んでしまった巫女。会場 笑。
取り繕うように鼻で笑いながら、
巫女「何を失礼なことを言うのじゃ、神様のお姿が見えるもんか」
義「わしはなんべんもおうとるわいっ、金毘羅さんは、白いきものを着て金の冠をかぶっとるおじいさんや
高い声で得意そうに言いながら、
「わしと一番仲のええおひとや〜!」と金毘羅さんのいるお空を指差して立ち上がる義太郎。
片足でとんとんっと前に出る。
吉治が後ろから慌てて押さえつけて再び座らせる。
巫女は憤慨して、
巫女「これは狐憑きでも酷い狐憑きじゃ。どれ私が神にうかがってみる」


<神憑きの儀式?が始まります>

他の家族が畏れ多いとひれ伏す中、巫女が「アーーーー」と高い超音波声を出しながら御祓いの枝を手にステージを回る。
そして義太郎の正面、ステージ中央で神様を憑かせるためと思われる儀式。
「おん!ばさらーそわか!おん!ばさらーそわか!」
怪しさ満点の呪文を唱えながら、ばっさばっさと御祓い枝を体の左、そして右に振り上げる。
あー、とお口を開けてあほのこ仕様でそれを見ていた義も真似っこして、
楽しそうに「おんっばさらあっ!」とかなんとか叫びながら右に両腕を振り上げる。笑。
次は飛行機の模写をするときのように、両腕を伸ばし斜めにしつつその場で回る巫女、
やっぱり義も真似して、同じように両腕をピーンと伸ばし、またしても吉治に慌てて取り押さえられる。立派な天丼!
巫女の滑稽な動作を口を開けて眺めて、あははー!と興奮し、吉治に押さえられたままだからせめて足をばたつかせる義。
か、かわいい…!

巫女に神が降臨したらしく。気絶のような格好で、義の前に頭を投げ出す形で床に仰向けに倒れる。
みなが驚く中、義太郎だけはへらへら笑って巫女を覗き込もうと腰を浮かしかけ長椅子の前へ。ぴんと浮いた裸足の足が白くてえろい。吉治が後ろからはがいじめでロック。

みんながそろそろーっと近づくと、突然がばりと起き上がり、
一同「うわあっ」
ぴょんぴょん飛び跳ねてステージを周り暴れ出す巫女!
したらまた真似をして、奇声を上げながら同じようにぴょんぴょんと舞台を飛ぶ義太郎!
ステージ上はもうてんやわんや 笑。
吉治が暴れる義を抱きしめるようにして止め、抱きかかえるようにして、再び長椅子へ。

巫女は飛んで中央の柱に片手で取りつき、正面を向いて体を斜めに。
皆は畏れ多さにはーっとひれ伏す。

低い禍禍しい声で、
巫女「われは当国しょうずざんに鎮座する、こんぴらだいごんげんなるぞ〜」
みなより一拍遅れて、義太郎も面白がってベンチから手前の地面にてんてんっとあぶなげな様子で降り、
不自由な足は伸ばしたままははーっと笑いながら頭を伏せる。

巫女「この家の長男には鷹の城山の狐が憑いておる、カーッ!」
義「かーっ!」
巫女「青松葉でくすべてやれ。わしの申すこと違うにおいては神罰たちどころに至るぞ、カーッ!」
義「かはーっ!」
合間合間に脅しのような気合い入り。
巫女がカーッと語尾に言うたびに、舞台右前で客席には背を見せたまま、義太郎も左手の指を5本開いて思い切り口を開けてカハーっ!
可愛いのなんのって。まじで子どもな。
吉「しっ、しずかに!」
やっぱり一番近くにいた吉治が肩に手を置いて制したり面倒見てくれている。

ご祈祷終わり。
吉治は義を木の長椅子に座らせなおす。

正気に戻り、また義の隣りへ来て手をかざす巫女。
巫女「神様の声を聞いたか。苦しまぬ前に立ち去るがええぞ」
義の中の狐に話し掛けるが、
義「金毘羅さんの声はあなな声ではないわい、カーッ!」
いっぱいに開いた手つきを見せながら、義太郎がカーッという気合い入れを真似して口答えする。

義「おまえのようなおなごをな カァッ
  神さんがな カァッ
  相手にするもん カーッ!
」 会場大笑い。
義の活発で、無邪気で、邪気がないだけに馬鹿にしたようにはむかう様が見ていて爽快。

巫女「ええいっ今に苦しめてやるから待っておれ!」

吉治が父に言われて舞台右にある松葉を切りにいく。
母はおろおろ、巫女がたきつける、
準備でわらわらなる中、義太郎はまだ彼方の楽しい世界に夢中で、空を指差したまま今度は木の椅子をおけつで右へ右へちょこちょこスピード移動し、ついにはべたんっとまた落ちてしまう。
吉治は松葉を取りにいってるので今度は誰も抱き起こしてくれない。
地べたでひとりであははっと何も知らずに笑ってる…これから家族に松葉でくすべられるともわからず…



<青松葉に火がつけられる>

っていうか青松葉に火をつけたら酷い臭いと効果があるの?初めて知ったよ…

吉治に抱きかかえられるようにして舞台中央前の煙の中へ連れていかれる義太郎。腕も足もツンと突っ張って嫌がるその様子がなんとも……!!

義「いややあ!おとう何をするんだ、目が痛いわぁ、なんやこれえ」「きちはなせよお」
右を父、左を吉治に挟まれて、もくもくと出る煙にくすべられる義太郎。(煙はたぶんドライアイス?)
初めは不思議そうに松葉に顔を近づけるも、すぐにゲホッと咳き込んで身を起こす。
呼吸困難で苦しそうにしながら、ぴんと張った右手の指で目をこすり、いややあいややあと大きく口を開けて泣く。足のつま先も突っ張って浮いている。

松葉を扇ぐ藤作さん、脇でむごいことをとおろおろする母、
わちゃわちゃしてるうちに義と吉治の位置が入れ替わり、父が吉治の首ねっこを押さえながら煙に押しつける 笑。
父「我慢せえ、我慢せえ」 会場 笑。
その様子を見て楽しそうに笑って自分も吉治を後ろから押す真似っこ大好きな義太郎。
大口開けてあはーって喜んでる回とか、「我慢せえ〜」ってセリフまでおとうたんを真似てる回もありました。

わあわあなっていると、舞台後方の扉から人影、
末「帰りましたぜえ〜!」
父「末が帰ってきた!日曜でもないのにどうしたんやろ」
慌てて火を消して、隠そうとする。



<弟・末次郎帰宅、煙に気付く>

白シャツ、グレイズボン、学生帽に斜めかけ鞄。足元は下駄。ちゅうがくせい…にしてはでかい。

末「どうしたんです!松葉なんかくすべて」
誤魔化そうとする父。なぜか義太郎を自分の背後に隠す吉治 笑。
義「ああー末やあ」
まるきり子どもの口調で、涙の滲む目を擦りながら、吉治を押しのけて弟に歩み寄る義太郎。
義「げほっ、げほ、」
たどたどしい言葉で、松葉やらおとうたんやらを指差しつつ、
義「あんな、これなあ、おとうやきちがな、みんなでよってたかってな、」
一生懸命説明しようとするうちに辛かったさっきの気持ちが薄らいできたのか、末次郎の前で満面の笑みになり、

義「わしを松葉でくすべよるんや(にこおっ)」

ここがもう頭の中が春な子の様子として最高潮に哀れでもありいとおしくもあり。

その兄の様子を見て末次郎は一瞬押し黙り、義太郎の肩を抱いて自分の後ろに守るように引き入れる。
末「お父さん!」
この一喝がまた正義感に溢れていてびしっとしてかっこいいこと!
でもちっこくなるおとうたんが可哀相 笑。

庇われた義太郎は、末次郎の影に隠れるかたちでふっと表情を失っている。悲しみにも見える汗の滲む顔。
弟の厳しい顔つきを見て何かを感じたのか、自分のことでモメている空気がわかるのか。
憐れまれること、自分が普通ではないこと、弟が怒ってること。どこまで狂人は理解してるんだろうか。

末「兄さんが理屈が言えんからってこなな馬鹿なことをして!」
怒り心頭の気の短い弟、舞台前方中央に残っている神の松葉を足蹴にする。
末「ていやっ!」
どうでもいいけどその足元は鼻緒の下駄で、笑いながら(えらいバンカラやなあ末!)と思う私。
末「ていやっ!」
義「ていやー!」(これがいま剛の中で流行ってるらしい、確かにごっつうれしそーな顔で演じてました)
弟の攻撃のあとに続いて動かない足を振り上げ、また同じように真似っこする義太郎。
ほおーって丸めた口をして、弟をかっこえー!と尊敬してるような表情。本当に子どもの様子。会場 笑。
あああっと焦る兄弟以外の周囲の人々。
巫女「その火は神様の仰せでついとる火ですぞ!」
巫女の脅しにも耳を貸さず、末次郎は再びこれ見よがしに松葉を踏みつける、
末「やはーっ!」
義「やはー!」
義太郎満面の笑みで楽しそう。

父「末次郎!」
さすがに罰が恐ろしく、末の身を案じて止めに入る父。
義太郎は足が痛むのか暴れて疲れたのか、末の斜め後ろの位置で床に腰を下ろす。
右足を伸ばし、また空を指差してにこにこあっちの世界へ。もう周りの騒ぎは目に入らない様子。

<詳しくは原作を(略>

末「日本中の神さんが寄ってきたって風邪ひとつ治るもんじゃありません!」
おお!なんという進歩的な考え方の啖呵!きもちがいいです清清しいです。この時代にこんな考えを持ってるっていうのはかなり凄い開眼じゃないかなあ。

そして末次郎の独壇場。
末「兄さんがこの病気で苦しんどるんやったらそりゃどんなことしても治したらなあかんけど、屋根にさえ上げといたら朝から晩まで喜び続けに喜んどるんやもの、兄さんのように毎日喜んでおられる人が日本中に一人でもありますか?世界中にだってありゃあせん。それに今、兄さんを治してあげて正気の人になったとしたらどんなもんやろ。にじゅうしにもなってなんも知らんし、いろはのいの字も知らんし、ちっとも経験はなし、おまけに自分のかたわに気付くし、日本中でおそらく一番不幸な人になりますぜ。それが父さんの望みですか?!」

滑らかなセリフ、独特の言い回しとイントネーション。聞き惚れる。とってもいい音楽のよう。

末「なんでも正気にしたらええかとと思って、苦しむために正気になるくらい馬鹿なことはありません」


しんみりなる舞台上。



末「藤作さん…」
高橋克実、そろーっとお勝手から出ていこうとする 笑。(終盤では巫女に隠れるように縮こまる、に変更)
末「藤作さん!」
見逃さない末次郎するどい。
末「あなたが連れてきたんやったら一緒に帰ってください」

連れ帰ろうとした藤作さんを振り切って、巫女さんがもう一暴れ。
「アーーーー」とまた超音波声を発し、妙な儀式をして、ばたんと気を失い、ぴょんぴょん、 <説明が面倒くさげですいません(笑)
もう一度神様を憑依させたていでまた柱に取り付く。
この間に義太郎はまたお空の何かに気を取られ、嬉しそうに舞台の後ろに早足でオチオチ歩いていき、ハケている。

巫女「われはこんぴらだいごんげんなるぞ〜!カーッ!」
再び憑依。
ははーっとひれ伏す一同。
末だけは呆れたように周りを見渡して、義が座っていた木の椅子に腰掛ける。
巫女「兄の病気の回復するときはこの家(ヤ)の財産がみな兄のものとなるゆえなり〜夢疑うことなかれ〜カーッ!」
憑いたフリをしてとんでもないことを言い出した巫女に怒り心頭の末次郎。
末「何抜かしよるんやこの馬鹿!詐欺め!騙りめ!」
蹴りつける。
末次郎の神への暴挙を止めようとしてわやわやなる舞台上、突き飛ばされた藤作さんが松葉に頭を突っ込んでアチッとなったり笑いの渦。大騒ぎ。巫女の祈祷に続き、コメディらしい場面。

末「貴様のような騙りに兄弟の情がわかってたまるか!」
短気で兄思いな弟、ええなあ。勝地くんも実直さまっすぐさがうまく出ていて良かった。


<詳しくは原作を(略>
<巫女と藤作退場>


落ち着いたあたりで物音がしたと思ったら、義太郎がふらふらと屋根の上に登場。下界は見向きもせず、また雲の上の神様と会話してるよう。「あんな」「さっきな」と口が動いているように見える。巫女のことを金毘羅さんに報告してんだろーなー。

下では木の椅子に座りなおした母が、
「私は初めからアヤシイやつじゃ思てたんや(悪顔)」
うまい。

騒ぎがおさまり、やれやれという雰囲気が漂っている。


父「でもな末、兄さんは一生おまえのやっかいやぜ」
末次郎は笑って首を振り、きっぱりと言う。
末「何がやっかいなもんですか、僕は成功したら、鷹の城山のてっぺんにたかいたかい塔をこしらえて、そこへ兄さんを入れてあげるつもりや」
父は優しい弟の言葉に、そうか…と満足そう。

この会話の間に吉治は舞台左へ行き、転がっているほうきを拾ったりして、ふと屋根の上の義太郎を見つける、という細かい演技をちゃんとしてました。

父「それはそうと、義太郎はどこへ行ったんや」
吉治「あそこへ行っとられます」
諦めて苦笑いの吉治に促され、みんなで屋根を見上げる。屋根の上に座って義太郎が幸せそうにまた空を指差してにこにこしている。
父「おお、おお、またやっとるわ(嬉しそう)」
義が変わらずに狂ったまま幸せでいることにほっとしたような空気が流れる。

父母笑い合いながらハケる。吉治も舞台左へハケる。



<兄弟以外は舞台から退場>

背後のスクリーン、いつのまにか夕焼けの空。淡いピンクとオレンジのグラデーション。

末次郎、屋上を見上げて微笑み、静かな声で。
末「普通の人やったらくすべられたらどないに怒るかしれん。でも兄さん、忘れとる………」
兄は現世ではない雲の上の神様に夢中の様子。ぶつぶつと口の中で何か言いながら、神様と会話をしている。


末「にいさん!」


心から兄をいとしく慕う強い声、その呼び名。
神様の寵児を今生に引き止める家族の声。
別世界に旅立っていた兄の耳に、その声は確かに届く。


少しの間を置いて、地上の弟の方に顔を向けると、
義「あー末やぁ」
と兄は心底無邪気に名前を呼び返す。


義「あんな、金毘羅さんに聞いたらなあ、あななおなご知らん言うとったぞ(嬉しそう)」


末「そうやろ。あなな巫女よりも、兄さんの方に、神さんが乗り移っとんやあ」


末次郎の言うことを理解できないのか、義太郎は曖昧な表情のまま首を傾げる。
そしてまた、ゆっくりと空を指差す。


黄色く強く照りつける照明。
沈黙。



(原作より)雲を離れて金色の夕日が屋根へ一面にさしかかる




末「ええ夕日やなあ」


義「末ぇ、見てみぃや、向こうの雲の中に金色の御殿が見えるやろ…、きれいやなああ、ちいと見てみぃ!」
浮き立つ声、自分に見えるものを弟にも教えようとする兄。


常人の弟には見えない。決して見えないし聞こえない。
違う世界の住人、それでも末は穏やかな顔つきで同じ空を見上げる。
兄が天空の彼方に見ているだろうものを見上げて、やさしい声で応える。


末「ああ、見える。ええなあ〜」


照明に、赤みが増して。


義太郎がぴくんと何かに耳をそばだてる。
義「ほら!御殿の中から、わしの大好きな笛のねが聞こえてくるぜえ」


義太郎から活発さが消え、うっとりと、この世のものではない何かに引っ張られるように腕を上げ、指をさす。


義「ええ音色やなああ……」


義太郎のどこまでも澄みきった甲高い声が余韻を残す。




夕暮れの空。
大きくなる管弦の音楽。


落ちていく照明、少しずつ笑みが消えて無心の表情になっていくようにも見える義太郎。





そして暗転。














【 終 】

引用・参考文献:「父帰る恩讐の彼方に 他七編」菊池寛著(旺文社文庫


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◆カーテンコール◆




拍手鳴るなか、出演者一同横一列に。
最後に出てきた剛が中央。

白い着物ですらりと研ぎ澄まされた透明感、存在感。さっきまでの狂人の愛くるしい雰囲気はどこにもない、物凄く男前な、おとなのおとこ、という風情のクサナギツヨシ。

2演目ともずっと裸足でいた足には白い鼻緒の草履が!うわあ、とっても似合っててかっこいい!
ここまでそろえるとは衣装さんもいい仕事してます。

全身、肌も着物も真っ白で、さっぱりと澄み渡った表情に薄く控えめな笑み。見惚れる。惜しみない拍手。

一礼して、あっさり引き上げていく出演者、途中の柱のところで毎回立ち止まり、剛ひとりがもう一度礼。大きくなる拍手。すらりと伸びた着物の背筋の印象を残し、ハケる。
でも着物を着ていても歩き方や歩幅は現代人 笑。

拍手続く中、場内が明るくなり、終演のアナウンス。