第14回読売演劇大賞 中間選考報告

http://info.yomiuri.co.jp/prize/engeki/14_tyukan.htm

優れた舞台や演劇人を顕彰する第14回読売演劇大賞読売新聞社主催、日本テレビ放送網後援)の中間選考会が開かれた。推薦、討論、決選投票で、2006年上半期(1〜6月)の作品賞候補など、5部門のベスト5が決まった。(敬称略)


■作品賞

TPT「スラブ・ボーイズ」、シス・カンパニーヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」、同「父帰る」「屋上の狂人」、新国立劇場「やわらかい服を着て」の4作品が3委員の推薦だった。
「スラブ・ボーイズ」は「若い俳優がせりふの力でリアリティーある世界を構築し」「好感が持てた」、また「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」は「せりふが刃(やいば)のようで闘争的。レベルの高い舞台」と、翻訳劇2作が選ばれた。
菊池寛作品を連続上演した「父帰る」「屋上の狂人」は、「出演者が生き生きと演じ、作品本来の浮遊感を出した」点への評価から、「屋上の狂人」での選出で意見が一致。
前回の最優秀作品賞受賞作「歌わせたい男たち」に続き、永井愛が作・演出した「やわらかい服を着て」は意見が割れた。「イラク情勢に対する問題意識と恋愛感情が絡み合う人間模様が面白い」と評価される一方、「前作ほどの切れ味がない。政治への憤りが消化されていない」との声が強く、選外となった。
残る2枠は、強い推薦のあった7作品が討議され、決選投票へ。劇団民芸「審判―神と人とのあいだ 第一部―」が「木下順二作品の重厚さを堪能させた」、博品館劇場などの「アルジャーノンに花束を」は「純粋さとは何かという視点を明確に打ち出したミュージカル」として選ばれた。
埼玉県芸術文化振興財団などの「間違いの喜劇」、木山事務所の「出番を待ちながら」、コクーン歌舞伎東海道四谷怪談 北番」、シーエイティプロデュースの「6週間のダンスレッスン」、劇団☆新感線の「メタルマクベス」は惜しくも選から漏れた。



■男優賞
5委員の推薦を受けた草なぎ剛と4委員が推した段田安則が選ばれた。草なぎは「父帰る」「屋上の狂人」2作品での「素直で柔らかい演技」が新鮮な驚きを与え、段田は「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」の「怒りと悲哀、達観を行き来する演技」を高く評価された。
歌舞伎俳優2人は各3委員の推薦での選出。市川亀治郎は、パルコ歌舞伎「決闘!高田馬場」で3役を演じ分け、「松竹梅湯島掛額」で八百屋お七を端麗に演じたことが称賛された。
中村吉右衛門は「井伊大老」で見せた「心中物のようなつややかさ」、「夏祭浪花鑑」での男伊達(だて)ぶりに評価が集まった。
もう一人は、コクーン歌舞伎東海道四谷怪談」の2バージョンで、さまざまな役を巧みに演じ分けた笹野高史に決まった。
レインマン」の橋爪功、「上野動物園再々々襲撃」の篠塚祥司、「鹿鳴館」の日下武史、「アルジャーノンに花束を」の浦井健治が選に漏れた。



■スタッフ賞

  • 美術の松井奥行きある屋根

3委員が推薦した「父帰る」「屋上の狂人」美術の松井るみは、「日本家屋のあかりを効率的に使って陰影に変化をつけた」「役者が芝居をしやすい奥行きのある屋根を作り、演出効果を上げた」などの点が高く評価されての選出だった。
ベガーズ・オペラ」「スウィングボーイズ」の音楽監督などの山口■也(ひでや)は「時代を表す音楽の効果的な使い方で、作品の質を向上させた力量」が、「フロッグとトード」の衣装の小峰リリーは「絵本のような衣装の制作」が、「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」の照明の小川幾雄は「回り舞台でありながら、出演者の影を作らない高度な技術」が、それぞれ称賛された。
5人目は「ひと夜」の美術の中嶋正留(まさる)に決まった。「一目で昭和の初期と分からせる生活感を漂わせた」日本風の美術の腕が買われた。
【注】■は「王」へんに「秀」



■総評:新鮮な顔ぶれ目立つ


■中間選考会で討論する選考委員
菊池寛木下順二の戯曲を再評価する舞台。若手演出家の意欲的な翻訳劇。そして、創作ミュージカル。大作や話題作を押しのけ、作品賞は演劇界の新たな息吹を感じさせる5作品が選ばれました。
中でも「屋上の狂人」と「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」は、男優、スタッフと合わせ、各3部門でのベスト5入りです。
俳優部門は、ベテランの深く味のある演技から若手の清新で躍動的な演技まで、演劇の魅力を多彩に映し出した10人の選出でした。演出家、スタッフ部門で、初めてこの賞に名前の挙がった人が目立ったことも印象的です。
ただ、この結果は決定ではなく、来年1月の選考会の参考とするものです。7〜12月の上演作に、これをしのぐ作品や人物が登場するのかどうか。下半期の舞台も見逃せません。
第14回は、昨年から引き続きとなる7委員に、初参加の西川信廣、5年ぶりとなる近藤瑞男の2氏が加わり、9委員で選考します。