タンゴ〜冬の終わりに


日本海に面した町の古びた映画館。清村盛は有名な俳優だったが、3年前に突然引退して、妻ぎんとともに生まれ故郷の弟が経営している映画館でひっそりと暮らしている。そこへ、昔の俳優仲間であった名和水尾と彼女の夫、連がやってくる。かつて盛と水尾は激しい恋に燃えていた。訪れた水尾が見たのは、すっかり狂気にとりつかれてしまった男の姿だった…。

蜷川舞台。初日を観たので、前半は硬め、ちょっと意味不明だったり冗長だったりするのは相変わらずなものの。後半、惹きつけられた。タイトルにもなっているタンゴのシーンの艶やかさと、その後の畳みかける狂気は見事。芝居に食い殺された憐れな男を堤さんは好演しておられました。かっこいい颯爽とした容姿でありながら、世間から逃げたり妻に縋ったり求められることを渇望したり子どもに返ったり、すごく魅力的に演じるんだもの。

以下ネタバレ。


  • オープニングの多人数のスローモーションからしてわくわくしたのですよ。何が始まるんだろうって。やっぱりちょっと長すぎはしましたけどねー 笑。
  • 中盤、段田さん演じる水尾夫と、弟とのやりとりで自然と笑わせてもらって、あそこんとこのかけあいや動きは楽しかったなあ。「暗い…」とか「ビタミン男」とか。うくく。これはほとんど段田さんの技量によるものが大きいなあと感嘆。
  • 水尾との過去のエピソード。あれはきゅんとくるね。しかもそれを狂ってるがゆえに当の当人からそうとは知らず真相を聞かされるってのが。「きっとその散歩の男はきみを本気で愛し始めていたんだ」って、たまんないなあ。水尾を混乱させたと言ってはオロオロして詫びるつつみんもすごーくキュートだった。うまい、そしてかわいらしい…。
  • 盛が死んでしまったあとの、ほんとうのラスト。大勢の観客、おそらくは盛のファンが、腕を振り声を張り上げて盛を称えている、なのにその引退宣言での熱狂はステージの上の盛の心に少しも届くことはなかったのだ…。迎えた終幕に胸が痛くなり、きっちりとかなしかった。演者と観衆のあいだにこんなにも隔たりがあるのなら、伝わらないものがあるのなら、わたしはすごくかなしい。受け取ることなく行ってしまった盛の狂気がかなしい。
  • 演出。中盤の、ブランコが5つ不意に出てくるシーンは幻想的でよかったなあ。あそこで少し逸れかかっていた意識がぐっと戻ってきた。あとラストの舞い散る桜吹雪と羽根!美しかった。たったひとつ、あのクルックー!と羽を広げた孔雀さんだけはいらなかったと思うの…。あからさまな実体すぎる。あそこでブハッと吹き出しそうになったよ私は 笑。そのあとの光りの分散と終わり方はすてきだっただけに。
  • 冬の終わり、才能の終わり。盛は何を思ったのかな。ああでも、冬が終わったらくるのは春なんだよなあ。

当日券も出ていたし、千秋楽までにもう一度くらい観に行こうと思ってます。