アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

「一緒に本屋を襲わないか」……椎名が引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の美青年。初対面だというのに彼はいきなり書店強盗を持ち掛けてきた。標的は―たった一冊の広辞苑?そして決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ。
一方、今から二年前、河崎と琴美とブータン人のドルジは、ペット虐待事件に巻き込まれてしまい………

文庫化されたので購入、再読(以前の感想は→ http://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20040820#p2)。やっぱりいいなあ。初めて読んだときには、終盤までからくりに気付かずに「???」と思いつつ、それでも軽快な文章と会話にノせられて一気読みしたんだっけ。からくりやオチがわかって読んだ今回は、じんわりと胸に染み入るような感覚。河崎も、ドルジも、琴美ちゃんもいとおしくてならない(椎名はマヌケすぎるし流されるに過ぎる・笑)。とにかくテンポがいい!好きなシーンや会話や格言がいーっぱい!「神様を閉じ込める」と「動物園からアライグマを盗む」エピソードだけがキメ打ち過ぎていまいちなんだけど、他は全部好きです。三人のやりとりや、ドルジの純粋なとこや片言や、河崎のめちゃくちゃなとこも好き。タイトルといい、センスあるなあ。これはわりと好き嫌いのわかれにくいお話だと思うし(た、たぶん…)、素直に面白いし、考えさせられるテーマもふんだんに入ってるので、ぜひみなさんに読んでもらいたいです!

「どしたの、それ」
「大学の友達、くれました。コジエンでない、けど」
「コジエン?」と訊き返してから、それが、「広辞苑」を指していることに気づく。
「これ、あると、安心ですか?」
「ドルジは日本語、読めないじゃない」からかうように言った。「意味ないよ」
彼は目を細め、その後で噴き出した。「差別だ」と怒ったふりをした。
「(僕は日本語が読めないけど、でも、この本に大切なことが書いてあると思うと、心強い)」
(中略)
「(じゃあ、教えてほしい日本語があったら、言って。調べてあげるから)」と辞典を手に取る。
「そう、ですか」ドルジが顔を明るくする。「では、『ずば』って何ですか?」
「ずば?」
「ずば抜けて、と友達、言いました。『ずば』、分かりません」
「(それは嫌だ。他の言葉はないの?)」ずば、だなんて調べたくもない。
「では、『ちょんぱ』って何ですか?」
「ちょんぱ?」
「首ちょんぱ、と誰か、言いました」
「(それも駄目。そんな言葉、使う機会なんてないって)」
「(琴美は厳しいなあ)」ドルジは怒る風でもなく、楽しんでいるようだった。「では、アヒルと鴨、どう違いますか」

ちなみに映画化もされます。http://www.ahiru-kamo.jp/ どうなるんだろう……