風が強く吹いている/三浦しをん

風が強く吹いている

風が強く吹いている

寛政大学4年の清瀬灰二(ハイジ)は肌寒い三月、類まれな「走り」で夜道を駆け抜けていく蔵原走(カケル)に出くわし、下宿の竹青荘に半ば強引に住まわせる。清瀬には「夢と野望」があった。もう一度走りたい、駅伝の最高峰・箱根駅伝に出て自分の追求する走りを実現させたい。その「夢と野望」を「現実」にできるラスト1年、強力な牽引者が彼の目の前に現れたのだ。
竹青荘は個性的な男子学生の巣窟だった。既に司法試験に合格している頭脳明晰なユキ、陸上経験者で今は大学5年生のぐうたらニコチャン、落ち着いていて気配り上手な神童、アフリカからの黒人留学生ムサ、クイズが大好きで雑学王のキング、屈託なく明るい双子のジョータとジョージ、見目は王子様なのに漫画ヲタクで運動音痴な王子、そしてハイジと走。清瀬は住人を脅しすかし、奮い立たせ、「箱根」に挑む。たった十人で。蔵原の屈折や過去、住人の身体能力と精神力の限界など、壁と障害が立ちはだかるなか、果たして彼らは「あの山」の頂きにたどりつけるのか。
長距離を走る(=生きる)ために必要な真の「強さ」を謳いあげた書下ろし1200枚!超ストレートな青春小説。最強の直木賞受賞第一作。

★★★★☆ これはすごい。魅力的なキャラと爽やかな展開と作者の情熱に引きずられて途中で読み止めることができませんでした。私は正月の駅伝もまるで見ないし、自分で走るのも好きじゃないし、それでもあちこちの描写にぐっときて涙ぐんでしまうくらい、みんなが一生懸命に走って、生きて、何かを得ようともがくお話。友情あり揉め事ありライバルあり先達あり、せいしゅんの王道!やつら10人の妙な明るさと連帯感ににこにこ一気読みです。駅伝ってこんな制度で競ってるのかあ、とそれだけでも新鮮だし、箱根を走る一区一区の間に住人ひとりひとりの心情と身上も描かれるので消化不良感がない。すげえなあ、スポーツの素晴らしさ、駅伝のたすきを繋ぐことの魅力、「走るということ」の恍惚をこんなふうに書き起こせたりするんだあ。彼らそれぞれの人生の道、ひとりひとりにとっての頂点、それを過不足なく描き出すところなんか、ほんとうにうまい。いいものを読んだ。表紙と中表紙も秀逸!たのしいっ。

そしてしをんさんですから、腐女子観点からもほぼ完璧なつくりです。妄想して萌えるのになんて絶妙な設定と情報の出し具合!この場合、出し過ぎない・狙いすぎないことが重要です。最近の安易なBL狙い過ぎのあれやこれやには見習ってもらいたい。そんなあからさまなのではうちらは萌えないんだようおうおう、ということを。中盤で竹青荘の面々の女関係に軽ーく触れるところなんかもう計算され尽くしてるよ。ユキが一番にニコチャンに「あんたはどうなんですか」って聞くわ、ニコチャンは「俺には今そんな体力ない」って言うわ、したらユキ自身は聞かれて「(俺に)いないわけないでしょう」つって強がるわ(勝手に強がり認定)、清瀬が実はそっち方面にも如才ないとこなんかすげく萌えるし。清瀬と走の互いへのラブっぷりはすさまじい(終盤のここが唯一ちょっとやり過ぎ感があるけど)。卒業しても一緒に走り続けるみたいですしああもうまさに奇跡の出会い!走のあの超鈍ちん具合からするとハイジは苦労すんだろうなあ〜きゃー(悶えるな)。ニコチャンが清瀬と走の関係を客観的に観察して見守ってる描写とかかーなりツボでした。
清瀬と走、ユキとニコチャン先輩という鉄板のカップリングはもちろんのこと、走と榊、清瀬と藤岡、走と双子、神童とキング、などなどありとあらゆるカップリングを楽しめるようになっております、修行を積んだ腐女子にとっては。ああでも楽しむカプもたぶん腐女子それぞれによって違うな。私にはその属性がないんだけど、きっと仙道と牧絡みのカプやらヒソカ×ゴンやらが好きなひとは藤岡×走も好きだと思う(って知らないひとには意味不明なヲタク的話題・笑)。私は単体では嘘つきな監督ハイジ、カプはユキとニコチャンが好きでした。キングも前半は印象薄かったけど、区間走での自己分析を読んでからは気になる存在だなあ。
とはいえ、しをんさんの作品ではこれが一番評判がいいみたいだし、他のはもっとBL寄りみたいなので手を出すのを躊躇われるわあ。