英田サキ「エス」シリーズ、完結

エス 残光 (SHYノベルス170)

エス 残光 (SHYノベルス170)

大物ヤクザであり椎葉のエスでもある宗近が何者かの銃によって倒れた。宗近を守るため、ある決意のもと宗近から離れた椎葉は、五堂によって深い闇を知る。複雑に絡まり合う過去と因縁。錯綜する憎しみと愛。奪われた者は何で憎しみを忘れ、奪った者は何で赦しを得るのか。この闘いに意味はあるのか?闇の中でもがき続けた男たちの鎮魂曲

最後まで読みました。まさかのハッピーエンドでスッキリ。宗近を思うあまり五堂の懐に飛び込んでいった椎葉、その心理的な駆け引きはなかなかよかったです。自分に素直に、何が悪くてどう生きていきたいのか、何が欲しいのか、丁寧に辿っていて共感しやすいし生真面目に思い悩む椎葉には好感が持てる。無駄に強姦とか痛い目に遭うシーンがなかったのも評価高し。宗近と再会できて思いを伝え合うシーンはちょっと感動してしまったよ。よかったね椎葉!!
それにしても主人公なのに、しかもれっきとした有能な刑事って設定なのに、椎葉ってばあんまり役に立ってなくない?ってとこが少々不満。全部宗近と篠塚の尽力のおかげなんだもんなあ…まあでもその有能な二人の男を動かした原動力、力の源が椎葉だってことでいっか。BLで一人称だから椎葉の仕事と恋愛に焦点を置くのはこれはこれでいいと思うんだけど、事件の収束がちょっと早足になった感は否めない。篠塚がどこをどうやって警察内部の汚職者をあぶりだしたのか、五堂にどうたどり着いていたのか、宗近は松倉組をどう立て直して、東明をどうひとり立ちさせたのか。そういうのが詳しく知りたかった。超おもしろそう。特に宗近視点の感情は読んでみたい……最後のほうで、お互いにいつ惚れたかって会話はちらっと出てきてますけどー。浅川×篠塚でも五堂×宗近でも鹿目でも番外編書けそうだよな(笑)椎葉と宗近の会話自体もっと読みたい感じだし。
ま、とにかく宗近も椎葉も死んじゃわなくてよかった、続いてくれてよかった。いい読後感のなかなか男前なBLでした。新宿が舞台だったので、私的には知ってる場所が盛りだくさん出てきたのも楽しかった一因かと。

「お前を裏切ったんじゃない。本当にそんなつもりじゃなかったんだ……。俺がお前を、お前を裏切るはずない。お前は俺のエスなのに……」
「椎葉。エスとか刑事とか、もう関係ないだろう。始まりはどうであれ、俺たちはそういう場所から、とっくに踏み出している。そうじゃないのか?俺だけがそう思っているのか?」
真摯に問われ、椎葉はついに観念した。(略)
「宗近、俺は……俺は……」
言葉が出ず、もどかしくて首を振る。椎葉の肩を掴み、宗近が強く言い募った。
「誓えよ。エスじゃなく、ひとりの男としての俺に誓え。俺を二度と裏切らないと。俺を愛していると。お前の本当の言葉を聞かせろ。もう建前も言い訳もなしだ」

気になってる方は、こちらの特集をどうぞ〜。いいところの文章が読めます。→『エス』完結記念特集 何気に特技の欄が、宗近「ギター演奏」、篠塚「説得」になってるのも笑える。くくく。