ラッシュライフ/伊坂幸太郎 ★★☆

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬と拳銃を拾う。金で買えないものはないと豪語する画商は賭けをする。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。

フィッシュストーリーを読む前に予習として再読。各パートの登場人物が少しずつリンクして、時間軸が少しずつズレて描かれるラッシュライフ。最後のほうで、ああこれがこの人で、この噂がこことここで繋がって、あの事件の真相はこうなのか、とわかる仕組みになってる。それにしても前にも読んだのに私はまるで筋を覚えてない。泥棒の黒澤がかっこよくって、いいアクセントと息抜きになってる。みんな主役、なんだけど、オチは無職で犬をお供に連れたおじさんなのかな。なんとなく希望を見せて終わった。「恐れるな。そして、俺から離れるな」、そう見えた老犬の描写が詩的ですてきだ。リストラリーマンの哀愁は横山秀夫先生にも負けてないと思う。ちょっと若めの哀愁ですが。
一番気合いを入れて書かれてるのは神を解体する河原崎のパート、だと思う。「神とは何か」という定義に様々な例が出てきて面白い。神とは、「胃みないなもの」「蚊みたいなもの」。なるほどー。結局高橋はなんだったんだろーな?

「で考えてみるとだ、この関係は人間と神の関係と似ているんだな」
「何と何がです?」
「俺と胃だよ」と言って塚本は自分の腹のあたりを触りながら「俺は自分の意思で勝手に生きている。死ぬなんて考えたこともないし、誰かに生かされているとも思ったことがない。ただ、そんなことは胃がまともに動かなくなったらとたんにアウトだ。そうだろ?(中略)
で、俺がいに対してできることは何かと言うと」
「何ですか?」
「声に耳を傾けて、最善を尽くし、祈ること」
原崎は自分の周囲の霧が晴れた気がした。(中略)
「俺は胃を直接見られない。(中略)いつも見えない場所で、そばにいて、一緒に死んでいく。神様と近いだろ?俺が悪さをすれば神は怒り、俺に災害を与えてくる。時には大災害かもしれない。それに、人はそれぞれ胃を持っている。そこも神様と似ている。誰もが自分の神こそが本物だと信じている。相手の神は偽物だとね。ただ、誰の胃も結局は同じものであるように、みんなの信じている神様はせんじつめれば、同じものを指しているのかもしれない」
似ていますね、河原崎は小さく頷いていた。無意識に自分の腹を撫でていた。

で、塚本は胃(神様)が死ねば自分も死ぬはずだから、高橋を殺して解体すれば高橋が本当は神だったのかそうじゃないのかがわかる、という無茶な論法で河原崎を仕立て上げようとするわけで。この理屈で説得されるようじゃだまされますよ、と。