イコン/今野敏 ★★★★☆

イコン (講談社文庫)

イコン (講談社文庫)

若者たちの神々が呼び覚ます悪意
バーチャル・アイドルをめぐる少年刺殺事件の驚くべき真相
マニアを熱狂させるバーチャル・アイドル、有森恵美。主役が登場しない奇妙なライブで、少年が刺殺された。警視庁生活安全部少年課の宇津木真は、仮想現実の世界で生まれたリアルな殺意の真相を探る。電脳メディアに宿る、現代の「聖画」とは!?若者たちの神々は降臨するのか……。傑作長編ミステリー。

面白かった!
事件の題材もパソコン通信上の架空のアイドルだし、ネット・アイドル論とかにも言及されていて、私にとっては超理解しやすいw タイトルのイコンも、安積班にしては変わったタイトルだな〜と思ってたら、パソコン用語のアイコンの語源になってるもので、東方正教会で使われる宗教画のこと。現世と神の世界を繋ぐ窓だと考えられてるんだって。へえへえへえ〜。

「ね、チョウさん。アイコンは、イコンのことです。つまり、現実と非現実を結ぶ窓です。何か象徴的じゃありませんか?」
「どういうことだ?」
「アイドルって、もともと偶像という意味でしょう? 神じゃないけど、神を具象したものです。つまり、イコンを開いてアイドルに会おうとする人たちがいる……」
「なるほどな……。昔、教会にあったイコンが、今はコンピュータにある。アイコンの向こうにはアイドル、つまり神がいるわけか……。そういうことを言いたいんだな」
「コンピュータに神が宿っているわけじゃない……」
 そう言ったのは、保科だった。「でも、ネットには、多くの意思が詰まっている。その中から神や教祖が生まれてもおかしくはないですね……。宗教的なものは、人の意思と感情が濃密に詰まったところから生まれる。(後略)」

この本が出されたのは1998年なんで今はだいぶん変わってきてますけど。あと、この事件自体よりも、その捜査を通じて変わっていく宇津木っておじさんのかわゆさにもやられました。ざんねんだったのは、犯人の背景と動機かなー。今野さんはおじさんを描くのはめっぽううまいですが、女の子はやっぱリアルじゃないなあ。それはでもしょうがないっか。

なんと言っても安積班だいかつやくなのが嬉しい!安積の凄さ・信望を集める理由もよくわかる。今まで読んだ中で一番捜査の経過は読み応えあったかも。

「これは失礼した。そうか、あんたが安積警部補か……。(中略)
「妙なやつだな……。なんで俺のことを知ってるんだ?」
 速水が、頬を歪めて笑った。
「あんたの評判のせいだろう。ある種の刑事には、救いになっているのかもしれない」
「救い……?」
「新設署に回されつづけ、常に部下の防波堤となり、それでも手柄を上げている。あんたを見ていると、失いかけていたやる気を取り戻す連中がいるんだ」
「家庭を失い、出世をあきらめた俺が救いだと?」

「渋谷署に合同捜査本部ができる。しばらく俺たちは出払うことになる。そこでだ。ここを空にするわけにはいかない。おまえさんは、残って切り盛りしてくれないか?」
 安積は、村雨の反応をさり気なく観察していた。彼は、殺人の捜査を外されたことを不服に思うだろうか?
(中略)
 村雨はうなずいた。
「わかりました。後のことは任せてください」
 その口調にひがみや、ねたみの気配はまったくなかった。安積はほっとすると同時に、村雨に対して、申し訳なさを感じた。自分は村雨の性格を悪く見すぎているのかもしれない。そのとき、安積は、そう感じた。そういった意味の申し訳なさだった。彼は、村雨に対して、「俺の留守を任せられるのは、おまえしかいないんだ」と言ってやりたくなった。
 言ってやるべきだったかもしれない。だが、安積は、ただ「頼む」と言っただけだった。

事件解決後、あづみんは神南署に戻ってちゃんと村雨を褒めてあげるんですよv