横綱マドンナ(原題:天下壮士マドンナ)@有楽町シネカノン


はい、予定通り「横綱マドンナ(仮)」観に行ってきました。韓国映画ショーケース2007。韓国で公開当時は、まあそのうち日本にも輸入されるでしょー、とスルーし、DVDが出たときもリュージョンコード直せば見れるっつー話だったけど、そこまでしなくてもいっかなーとスルーしてきたこの作品。んでも、邦題の仮題がついてるってことはどっかが買ったんだろうから、いずれ日本でも販売される…んじゃないのかなあ?


ついでに、帰りにSMAP SHOPも寄ってきましたよ。入らなかったけど。

 

韓国/2006年/116分
監督・脚本:イ・ヘヨン、イ・へジュン 主演:リュ・ドックァン、ペク・ユンシク
幼い頃から歌手マドンナを崇拝する男子高校生オ・ドングは、完璧な女性になるための手術に必要な資金を稼ぐためアルバイトに励んでいた。そんなある日、「シルム(韓国相撲)大会の優勝者には奨学金500万ウォン」という朗報を聞いた彼は、シルム部へ入部する。心優しく繊細な高校生がシルムに打ち込みながら力強く生き抜く自信を得るまでを描いたスポーツ・ヒューマン・コメディ。増量して主人公に扮したリュ・ドックァンの演技がすばらしい。

以下ネタバレです。



マチコ先生ならぬマドンナ先生の登場シーンは大きく分けて4つ。


●まずは授業のシーン


主人公のオ・ドングが憧れる日本人教師として黒板の前に白シャツ・カリアゲで立ち、すっきりとカリアゲた襟足も披露。びじんさん!なぜか後ろの黒板には、
『映画はどうでしたか。
 ちょっとむずかしかったですがおもしろかったです。
 この映画は今とても人気があるんですよ。
 ソラさんは映画をよく見るほうですか。』
という謎の日本語の板書が。なんですか、暗にわたしたち日本人に対するサービスメッセージですか。まあ、実際は見てる英語の教科書の題材が映画の話題っぽかったので、その日本語訳なんでしょうが。
そして先生に名前を呼ばれ当てられたドングの脳内で妄想スタート!パパパヤ〜♪みたいな妖艶な音楽(笑)とともに、急に囁くようなミルキーボイスになったマドンナ先生が「ドングや〜v」と誘惑し始めます。胸のとこで両手を交差させるエンジェルポーズの破壊力に 撃 沈 。ちょっと上目遣いで、「ほら読んでごらん…僕の心を…」とかなんとか媚びるように妖気を振り撒くマドンナ先生、ふわふわと舞い散る花びら(のCG)。「んふ、んふ、」と鼻から抜ける妙な喘ぎを漏らしつつ、両肩をクイクイッと上下させたかわいこちゃん風コメディアクションにトドメを刺される。あわわわ。妄想の最後、「電話してね…」と囁きながら、顔の横の右手(親指・人差し指・小指を立てた電話ポーズ)をりんりんりーん、と振って見せるマドンナ先生。たいへんに愛らしいです、せんせい。ニヤついたらいいのかモエたらいいのか忙しいくらいの不気味なキュートさです。
ところで、ドングが顔を隠した教科書の右上に憧れのエロ先生の横顔の落書きが描かれてるんだけど。それはもう耽美に素敵なタッチで。鼻の下〜唇〜顎のラインがかんぺきです。教科書の向こうから不思議そうに奇妙な生徒を覗き込んでくる(現実の)先生のドアップがまたえらく男前でした。
それにしても、ドングは心は女の子なブサ男子なわけですが、そんな子の好みのタイプがああいう中性的なシュッと整った先生だというのはどういうことだ?妄想の内容からして、やさしくてふんわかエロかわ、というのがドングのどストライクみたい。だからシルム(相撲)部の連中には純粋に友達として接してなびかない、と。ドングと趣味が合いそうです、がっしりと握手を求めたい。


●夢の中の教室のシーン


白いカーテンの翻る明るい窓際で、しゅっとした美形のマドンナ先生が振り返ります。
「どうした、ドング」 <このへんのセリフがチョンマルサランヘヨの歌詞とシンクロ
「先生、ぼくやりました!生理がきました!^^」 <え?(゜ ゜)
「そうか!やったな。ありがとう!^^」 <ええええええええええ?!!??(゜Д゜;)
びっくりです。なぜか先生もお礼を言ってます。すすーっと不気味に教室内を水平移動してくる先生。二人は手に手を取って、あはは〜うふふ〜vと嬉しげに回ります。絶好調なお花畑です。
「夢じゃないかな。先生、頬つねってください」
「いいとも。いくらでもつねるよ」
「(つねられて)……痛く、ない」
ドングは自分の布団で、弟の隣りで眠っていたのでした。そして次のシーンではお風呂場で、洗濯板で、ごしごしパンツ洗ってます…………夢精キタコレ。しかもしかもね、泣きながら洗ってるんだけどね、そのむせび泣きがまたせつないの。嗚咽。お風呂場のバックショットがけっこう長いんだけど、狭い汚いユニットバスで自分が汚したパンツを洗う男の子、生理がきて先生と喜ぶ夢を見るけど実際には自分にはぜったいに生理はこないわけですよ。それどころか男の白いモノが出ちゃうわけですよ。自認とは関係ナシに体は否応なしに男なんだと、出したあと独特の情けなさと相まってなんとも言えない絶望がありました。それでこそ、じゃにいずが夢精された意味があるってもんです。


●優しい先生のシーン

水飲み場の前で、いじめっこ双子の頭をぺしんっ!とやってドングを助けてくれるマドンナ先生。「横綱」という単語がここで初めて出てきます。憧れの先生に「がんばれよ」と言ってもらい、飴ちゃんを貰って有頂天になるドング。「せんせい!」と呼び止めた先で振り返った先生は…鼻くそほじってました。(右の人差し指が鼻の穴にずぼっ!てかんじ) ちょ、なにその演技プランw メイキングでチョナンはげらげら笑ってたので、きっとこのシーンもノリでやったんでしょねーたのしそーだねー。きれいじゃない先生の現実の姿、けど恋に盲目なドングはもちろん鼻ほじりはスルーです。ドングにとっての先生は鼻ほじってようとかわいこちゃんなのです。(そして私にとってもw)
「僕は胸をはって先生に会いにきます!」
「電話、しますね!(にこっ、りんりんのゼスチャー付き)」
……まさかこれが優しい先生を見た最後になるとは。
そうとも知らず家に帰って、飴ちゃんの包み紙をアイロンでプレスするドング(飴は食ったんだ…?)。宝物箱と思しきオルゴールに入れるんですけど、その箱をひらくと回って踊り出すドレスを着た小さな人形…の、顔のとこにマドンナ先生のバストショットが貼りつけてあるー!ぎゃぼー!会場大ウケでした。ウケざるをえない。ドングさいこうです。


●愛の告白のシーン

車に乗り込もうと近づいたマドンナ先生、フロントガラスに鳥の糞か何かを見つけ、ペェッと唾を吐きつけ、「きったねーなー!」 と悪態をついてガラスを拭き始めます。裏マドンナ先生だーっ、かかかかっこいい…!ぶっきらぼうモエなので素の日本語表現が乱暴だったことに大満足。そこに、先生の結婚を知って追い詰められて告白しにやってくるドング。
「結婚、しないでください。もう少しなんです、僕だって先生のこと好きなんです。僕の方が愛してます!」
「なっ、なんだおまえ!へんたいかっ!
告られてドン引きの先生は車体の横でよろっと腰が引けつつも、教師としてあるまじき暴言です。顔色を失くし、混乱のあまり日本語で。それを聞いたドングも、たどたどしい日本語で再度、
「あい、シテ、います」
つーのね。私この、相手の母国語とか、相手の操る表現体で告るってのにめっぽう弱いんですよ。それだけ伝えたいんだ!ってことじゃないですか。ドングのたどたどしさも案の定じわっと涙腺にきました。しっかし、非道な日本人教師は理解しません。あんなにやさしかった先生が豹変です。
「ば、ばかにすんなっ!言ってもだめならこうだ!」と車の中から取り出だしたるは、肘先ぐらいの長さのある硬そうな金色っぽい棒。なんかお仕置き道具出てきた。  女王様 で す か
「そこに伏せろ!」とまさしく吐き捨てるようなセリフを怖い怖い酷薄な顔で、睨みつけつつ放つ女王様先生。「伏せろ!」 しっ、しびれる……! 一瞬、生徒のお尻をペンペンするドS先生の図を期待 心配したのですが、憧れだった優しいはずの先生に自分の思いを否定され、変態とまでなじられたドングは失恋の悲しみ、絶望のあまり無言でとぼとぼとその場をあとにします……。その間ずっと女王様先生はいたいけなドングの背をお仕置き棒を握り締めて睨みつけてました。
以上で出番は終りです。
悪い方向に転じたまま放置。この部分と、夢精される(笑)部分が、ほんと「いいひと」パブリックイメージではありえないクサナギツヨシの使い方だと思うよ。そして私はそこがたいへん面白かったです。うはは。出演シーンは少ないけど、キーポイントとなる大事な役でした。だって、「女になって先生と結ばれたい」とドングがシルムを始める動機の部分の象徴であり、かつ、その憧れの先生に否定されたことで本当の意味で自分で自分を認めてやらなくちゃならないって次の段階に進むわけですから。確かにある種ヨゴレではあるけど、役おいしいし・お笑いたのしいし・私たちにとってはたまらない!あと何回か観たいです、マドンナ先生及びイケメン先生及びお仕置き先生を。
韓国ヨンファ、いいしごとしてくれたー!



映画自体もよかったですよー。やっぱり韓国映画は、単純に笑わせるのがうまい。シルム部の3デブちゃんとのダンスレッスンは見てるだけで笑えて和む。ちょっとずつ馴染んでいくあの過程もうまい。主人公のオ・ドングが、見てるうちにどんどん可愛く思えてきて、応援したくなってくるんだよね。終いにゃあの子がにこっとすると、相撲部のみんなもデレッとしちゃうし、おデブな先輩と組み合ってちょっと変な雰囲気になっちゃうとことか微妙〜な空気感を出していてうまかったなー。ずっと怖かった主将(伊原剛志に激似なの!かっこいい!)も最後はさりげなく認めてくれて、その関係・やりとりは厳しくもすがすがしく、伊原×ドングに萌えでした(*´д`*)
一方で、家庭での描写はけっこうシビア。母親には捨てられるし、父親は蹴ったりボクシングしたりで暴力。その上で更に、息子が女になりたい、と思ってるってわかったときに起こる拒否。ドングがバスの中で「僕の足は熊の足だ。ハイヒールを履いたら可笑しくてみんなが笑うだろう。わかってるんだ、僕はぶさいくな女になる」と静かに言った言葉と、母親が父親に「あの子は自分を憎んでいない」と言った言葉が印象的でした。「虐げられながらも、覚悟をして、アイデンティティを表明しようとすること」と「シルムに打ち込むこと」の関係がイマイチ繋がってなかった気もするけど、スポーツを通して強靭な心を養って成長する、って意味、ではセクシャリティの問題も決して特別なことではないんだと思う。
「俺は何にもなりたくない、ただ俺として生きたいだけなんだ」─────まずは女として、本来の自分として生きたい。このドングの願いが切実で染みた。彼女がしあわせになりますように。