平行線上のモラトリアム、垂直線上のストイシズム/崎谷はるひ

白鷺シリーズ「キスは大事にさりげなく」(http://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20060904#1157395129)で脇役として出ていた、知靖の友人で映画監督・弥刀紀章(ミトキショウ) × 藍の友人・佐倉朋樹。実は白鷺シリーズを3冊読み終わったあと、これも手を伸ばしてはいたんですが前半のあまりのぐるぐる具合・うじうじする攻にイラーっとなって冷却期間を置いてました(笑)。とにかくナイーブで甘えたな攻と、色気のかけらもない情緒欠落気味の受。痛いし恥ずかしいし青春ギャアアって感じ、だったけどやっぱり読み進めてくうちに面白くなってくるんですよねー。この組合せ絶対うまくいかねえだろ、と思いつつも最後はちょっとだけ振り向いてもらえてよかったね、と。ほっとした。

 だがさすがにしげしげ見られるのは居心地が悪く、眉をひそめた弥刀に、朋樹は言った。
「俺、けっきょく童貞なんすよね」
「あ、まあ、そうなる……かな」
 相変わらずの淡々とした風情でいるから、朋樹がなにを言いたいのか弥刀にはわからなかった。そして、ベッドサイドに膝をついた彼が放ったあっけらかんとした言葉に、呆然となる。
「やられっぱなしはなんか性に合わないんで、そのうちやらしてくんねえ?」
「……は?」
(中略)
「まあだから、あんたでいいかなって」
「で、って……微妙に失礼なことを言われた気がすんだけど、それ」
「なんでだよ?」
「とりあえず、俺が今まで見てきた人間のなかで、あんたがいちばん色気あると思ったから、言ったんだろ。やるんなら、俺は、弥刀さんがいい」
「……え?」
「つか、あれ? それって失礼なのか? よくわかんねえけど」


     平行線上のモラトリアム より

「いろいろ、ふつうの反応、してやれなくて、ごめんな」
 もう一度、かぶりを振る。もうこれ以上はいらない、そう思ったのに、朋樹は弥刀の手を取って、きつく握った。
「あのな、弥刀さんの撮るものは、俺にとって、花なんだ」
「朋樹……?」
「前にも言ったろ。なんもかんもくだらねえって思って、なに見てもつまらねえって感じてたあのころに、あんたの撮ったものだけ、俺に届いた」
 あの感動はおそらく、言葉にしても伝わらないのだろうなと、朋樹は少しはにかんだように笑った。
「ああ、まだものをきれいだと思える、まだ俺は終わってない、そう気づかせてくれる花なんだ。だから、俺はあんたの映像が好きだし、それを撮った弥刀さんの感性そのものが、とても好きなんだ」


     垂直線上のストイシズム より

なんとも不安の残るカプルでしたが嫌いになれません。特に朋樹の、ツンしてるわけでもないビシバシぶりが。そのうえ新米警察官になっちゃったりするんだからたまりません。朋樹視点の話も読んでみたいものです。たぶん、本人気づいてないだけで警察寮でもモテまくってるに違いねえよ。
このシリーズであと1作出るみたい?なんですかね。崎谷作品もだいぶ読んだのでここらで一覧整理でもしなきゃ。どれ読んだか・どれがよかったか忘れそう(笑)。



キスは大事にさりげなく (角川ルビー文庫) 夢はきれいにしどけなく (角川ルビー文庫) 恋は上手にあどけなく (角川ルビー文庫)
↑もともとの本編、知靖×藍。藍がアンアン言いまくりでかわいこちゃん受がツボじゃない私はちょっとヒキました(笑)。ボリュームあるので読み応えはあります。セレブ攻が好きな人もいいのでは。タイトルの覚えづらさは、慈英&臣シリーズに匹敵します。何度見ても覚えられん……。