ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎 ★★★★

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

本屋大賞に決まりました。http://www.hontai.jp/
伊坂さんおめでとう!1位がこれで、2位がサクリファイスhttp://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20071115#1195141416)。この2冊は、エンタメ系が好きでよく読んでる人にはちょーどいいんだと思う。濃すぎず薄すぎず、軽すぎず重すぎず。バランスがとってもいい!

仙台での凱旋パレード中、突如爆発が起こり、新首相が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に巻き込まれているから逃げろ」と促される。折しも現れた警官は、あっさりと拳銃を発砲した。どうやら、首相暗殺犯の濡れ衣を着せられているようだ。この巨大な陰謀から、果たして逃げ切ることはできるのか?

面白かった!特に中盤〜後半はぐいぐい引き込まれました。5部に分かれてて、まずは外側から見せる構成。「事件の始まり」で導入、 「事件の視聴者」で青柳雅春が犯人として放送された一連の報道合戦を視聴者の目から見た経過、 「事件から二十年後」で月日が経ったあと、結局どういうふうにこの事件が捉えられてるかをノンフィクションライターの視線から先に書いてしまう。で、やっと本編の 「事件」で青柳雅春本人の目線から巻き込まれた当日を追っていく。最後に 「事件から三ヵ月後」 がエピローグ。この順番もよく考えられてて、すごかったんだけど、私はちょっと前半ダレてしまった(笑)いやそこも真剣に読んどかなきゃいけない部分なんですけど。

テレビで青柳がお父さんのべらんめぇなインタビューを目にするとこではさすがに泣けた。あと、晴子と間接的にコンタクトがとれたときも!自分の無実を信じてくれる誰かがいるって、それだけで泣けるよなあ。青柳くんにもらい泣き。晴子の影の応援団っぷりもいいし。そういう意味で逃亡者としてもちゃんと定石は押さえてると思う、押さえながらも会話が伊坂節全開で、リズムよく乾いていて、おもしろい。

「覚えてます?」
「覚えてるって。それに、今、おまえたちの青柳のおかげで大騒ぎじゃねえか」
 おまえたちの、という言い方が面白かった。「すいません」
「晴子ちゃんがやったんじゃねえだろ」
「わたしたちの青柳君が、迷惑をかけちゃって。マスコミが囲んで、えらいことになってますし。テレビつけたら、工場が映ってました」
「人気者だよ」

「どうせ、おまえじゃねえんだろ」
「え」
「おまえがあんな事件の犯人なのかよ。違えだろ」
(中略)青柳雅春は奥歯をぎゅっと噛む。
見透かしたように岩崎英二郎は、「何、泣きそうになってんだ」と言った。「青柳、おまえが実は犯人だ、なんて言うなよ。聞きたくねえぞ」
「いや、そんなにあっさり岩崎さんが信じてくれて、驚いているんですよ」(中略)

「俺はテレビってやつはだいたい、嘘しかつかねえって思ってんだよ」

たくさん、逃亡者・青柳雅春と通りすがりに関わる面識のなかった人々、あるいは遠くから密かに応援する面識のある人々。特に学生時代のサークル仲間の男3人の描写はなつかしくって、いい味出てて好き。カズもがんばったし、あとロック岩崎とロッキーと青柳父がさいこうだったー。そしてキルオは反則。興味を引かれずにいられない。逆に、ちょっとだけキルオを都合よく使ってる気もしてズルイなーとも思ったんですけどね。友達も脇役も通りすがりの民衆もいいキャラしてて、あとは警察側の味方も出てくればかんぺきだった。そっちはわざと少なくしたんだろうけど、初めの事件後の未来の描写が長いわりに、警察側の諸事情などは解明されなかった。がっちり全員の事情を書けばきっと模倣犯みたいな大長編になったはずで、でもたぶん伊坂さんがしたいのはそういうことじゃない。


ラスト。微妙に負けたような勝ったような、このあんばいが伊坂さんらしい。私の好きな「魔王」http://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20060121#1137851490)のテーマを継承してよりエンタメにしたかんじ。たぶん伊坂さんの作品に描かれる思考は、私の持つメディアへの感じ方とか政治への感想と近いんだろう、だから共感できる。逆に言えば、ぜんぜん違う意識を持ってメディアや政治に接してる人には受け入れられにくいかもしれない。


以下ちょっとネタバレなのでやっぱり隠しときます。




全編を通して、青柳の逃亡を支えてくれた親友・森田の問いかけと言葉がいいアクセントになってる。「人生でいちばんの武器は、いちばん大事なことはなにか?」……友人森田は「習慣と信頼」、キルオは「思いきり」、そしてお人よしの青柳くんは「どんな状況であっても笑えること」、とか言っちゃうわけですよ。くうー! 青柳くんのキャラクターがよくって、ああかっこいいんだろうな ってのがすごく感じれたから最後までハラハラ親身になって付き合えた。ビジュとしては若い頃のもこみちみたいなもんだろか、で、整形後はイマイチになるという(笑)。


…………と思って読み終わったあとちらちら時系列に添って3部「事件の二十年後」を読み返してたらば。!!!そういうことか! 勝っても負けてもない、んだけど、それからも青柳が果たせなかった世間への訴えを自分なりにやり遂げようとしたのがちゃんと繋がる構成になってるんだ。すげえ。ヒントは第3部をよくよく読めばわかる。「アメリカ」と「お墓での森の声」ね、だからあの一見意味なさそな若者たちとすれ違ってたのか、お墓はなにも青柳の墓にいったとは書いてないしな。諦めなかったんだなあ青柳くん……とうれしくなった。こうやって生きて、生き抜いたのか。読後もいろいろと考えれてたのしかった〜!