清水宏シンポジウム「ニッポン・ルネッサンス 昭和初期の巨匠 清水宏監督復興」 @東京国際フォーラム

当たったので行ってまいりました。Dホールなので超せまい。たぶん100席ちょっと。1部でオリジナル版「按摩と女」をスクリーンで鑑賞、2部で清水宏監督についてのトークショーです。「山のあなた」の長めのプロモーション映像もありました。

戦前の日本映画史に、多大な足跡を残した清水宏監督。初のDVD化に先立ち、近年高まる清水宏再評価の兆し、作品の魅力と文化的位置づけを紐解くシンポジウムを開催します。
清水宏作品に出会って「按摩と女」を完全カバーするという企画を見事に完成させた石井克人監督。その「山のあなた 徳市の恋」出演にあたり、作品や演技のみならず戦前女性の所作を研究しつくしたマイコさん。映画史における清水宏の存在意義を唱える映画評論家の佐藤忠男さん――。
清水宏監督作品に魅了され、様々な立場で携わってきた方々に、昭和初期の映画や、清水宏監督作品の魅力と文化的価値を紐解いていただきます。シンポジウムに先立って、5月にはカバー映画「山のあなた 徳市の恋」の公開が控える、そのオリジナル作品「按摩と女」をデジタル修復によるリマスター版にてご覧いただきます。
    http://forest.kinokuniya.co.jp/camp/shimizu/index.html

●溝口、小津が天才と呼んだ清水宏監督を語るシンポジウムが開催(eiga.com) - Yahoo!ニュース

映画の感想はネタバレになるので最後に書くとして、まずはトークショーの内容。順番・ニュアンスは汚いwメモと記憶をもとにしてますのでおぼろげな感じで、思いつくままに。


 

  • シンポジウムの資料「子どもと旅と風景を愛した倣岸不遜な映画詩人」と、「山のあなた」のプレスシートを頂いた。レジュメがハンパない量で読み応えがあり、つい読みふけってしまったよ。「清水と小津は同い年で、若いときの二人が仲良くなったきっかけは、偉い所長に挨拶をしないと怒られたのが、この二人だけだったからという。二人はやんちゃで、そして、モダンボーイだった。」とか書いてあるの。やんちゃすてき(*´д`*) それにしてもものすごい多作だったんですね、多いときには1年に10作つくったらしいですよ。多! 生涯で163作品、そのうち現存してるのが32作とは少ない。
  • トークゲストは石井克人監督、マイコさん、映画評論家の佐藤忠男さん。石井監督は写真で見たそのまんま、にこにこしてて、先生の話にもウンウン頷いてた。めちゃめちゃいいひとそう!しかもモテそう! マイコさんは予想以上に外国人顔、若くてひらひら可愛いワンピースで、モデルさんっぽい。佐藤さんは当時のエピソードをたくさんお話してくださって、清水監督の人となりがわかって面白かったです。
  • 当時、ハリウッドの日本人カメラマンが日本に来て俳優さんに指導したのは、「10歩歩いて、振り返るだけでいい」「考えないでただそこにいろ」「映画には、演技云々より存在感が必要」ということで。「その先に誰がいるんですか?」と聞かれても「そんなの考えなくていい」と言ってたそうです。あとでこちら側に例えば恋人がいるのを差し込めば、無表情でも「あらすてき」と思ってるように見える、そのほうが観る側の想像を膨らませることができる。シナリオも読ませなかったとか。ホンを渡すと、たとえば明日死ぬ役だったらその結末に向かって演技をしてしまう、だけど実際に明日死ぬとわかってる人間はいないから、ということだそう。まあ、確かに。
  • で、松竹蒲田では素人を起用することで、映画にそのまま当時の世相を反映させるのに成功していた。一方日活は昔ながら役者を鍛えて演技をさせていた。そのふたつが平行して走ってたわけですね。そんな中で何気ない芝居を徹底したのが清水宏監督だったそうです。
  • ハリウッドはとにかく要領よくストーリーを語る手法に徹底しているわけだけど、その文法と相反する日本人監督に興味を持って取材に来たこともあったとか。長回し溝口健二Wiki)、動かないカメラの小津安二郎Wiki)のあと、「他にもいないか」と言われて、ハリウッドにはない、ストーリーよりも気分・雰囲気・存在を重視している清水監督を紹介したとのこと。あとで石井監督も、「芝居すると、映画は画面が大きいので出てきてしまって、うざったい。そういう意味では清水監督は現代的ですよね」と言ってました。
  • 清水監督の作品には温泉モノが多いが、刑務所から出所してきた失意の友達にも「温泉行こうか」と誘ったりして、慰めることもあったとか。いいひとだ。
  • 石井監督の話。「実はこの頃が女性の着物がいちばん可愛い時代なんですよ。色も柄も派手で」「旅籠の広場がない、というのが撮影始まる前から終わってからまで一番苦労したことですね。映画の中であの広場が重要な場所だと思うので、模型を作って、10分の1でもまだ違和感があるので、これ以上大きいのはつくったことないですよ!と言われつつも、5分の1のをつくってもらって、それでギリギリ」「撮影終わってからも2〜3ヶ月合成にかかったりして、僕らの間では旅籠の苦労、と言われてました」 「河原も探したけどなくて、美術さんの希望としてはぜったいに水がきれいなとこでなきゃやだ、ってことで。結局『茶の味』のときの、栃木のモテギの川を思い出して、行ってみたらやっぱりきれいだったのでもうここしかないね、ということで」
  • 清水監督が田中絹代さん(Wiki ←すごい人だったんですねえ)と試験同棲してたのは有名ですが、撮影所でも「絹代!」と呼び捨てにして周囲の評判を落としていたらしい。佐藤さん「そういうところが無邪気に過ぎるんですよねえ」
  • 女優を大事にする松竹蒲田〜大船は「女優王国」と言われていた。俳優をおだてる文化があり、「腹が立っても俳優にはこわい顔をせず、助監督を殴るわけですよ」。その中で、清水監督はおだてるのが面倒くさい、と思ったみたいで、「言う通りに動くのは子供だ」ということで子供映画を撮り始めたとのこと。司会の方が「石井監督はどういう個性的なやり方を?」とツッコミを入れてくれたので、石井監督は笑いながら「いやあ、僕も俳優さんには怒んないですねえ」と。あとで、「(山のあなたの撮影では)気楽な雰囲気はつくったけど、やってる僕らは全然気楽じゃなかったんですよ。もう、どうしようどうしようって」とも言ってた(笑)。
  • 最後のほうで、「山のあなた」の2分半くらいのプロモーション映像が。初めてマイコちゃんの美千穂が喋るシーンを見たけど、目の前にいる外国人顔の子とは違っててびっくり。多少のぎこちなさと声の感じがどう出るか、全編観るのが楽しみです。剛が丸窓に出てきて、「入浴料せんえんれす、ぜひごらんくらさい」とかわゆく言うんですが、その剛がオレンジとクリーム色の丸首のトレーナーだったりして、ちょwなんでそんな普段着みたいなのでwと集中できませんでした ヨ!
  • 司会さん「完成映像を見て、どうですか?」 石井さん「感無量です!カラーで出来た!って」 佐藤さん「清水監督は勝手気ままにつくってて、でも石井監督は手本があるんだから勝手気ままってわけにはいかなかったでしょ?」 石井さん「そりゃあそうですね。ただ、清水監督も『麦の揺れるとこをカラーで撮れたらなあ』って、けっこうあちこちで言ってたらしいので、それは叶えられたかなと」 佐藤さん「いい出来でした。どうしてあそこまで、あの温泉の雰囲気を出すことができたのか」 石井さん「一度引退した(美術さん?)人を呼んできて、旅籠の図面を引いてもらったんですよ。そのせいだと思います」
  • 石井監督は、清水さんの100周年なのに4人しか来てない!ってことを聞いて、これはまずいぞ、と奮起したらしいです。それはまずい。
  • マイコさん、くさなぎさんと共演してどうでしたか?と聞かれて、「気さくな方だと聞いてはいたんですが、本当にすごくフレンドリーで。」と答えてました。のちの質問タイムでも「目の見えない徳市相手にどう演技するか悩まなかったか?」と聞かれ、「監督から、おねえさんぽく、弟に接するように、と言われてましたのでそうしました」と答えてました。若いのに東京の女の悲哀を演じるのはたいへんだったろうなあ。
  • 質問タイムで、「完全リメイクということで、石井監督は自分だったらこのシーンはこう撮るのにな〜とか、そういうご自分の欲、みたいなものはありませんでしたか?」という問いかけに、石井監督は気持ちよく「ないです!」と答えてました。なんとう即答ぶり!そこまでカヴァーにこだわるんだったらなんでタイトルを変えちゃったんだよう、と思ったけどさすがに質問できなかった; だってどっかのインタビューで答えてるかもしんないもんねえ。(補足 ⇒⇒http://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20080527#1211898029

っていうかナイスレインボウさんに動画あがってんじゃん!そっち観た方が早いですよ〜w
http://www.nicerainbow.com/blog/2008/04/17/post_87.html




以下映画(オリジナル版)の内容に触れます、感想です。ネタバレなので一応隠しますねー。


  • 東京の男・真太郎の入浴シーンもあれば、徳市のパンツ一丁もある!ということは堤さんと剛もこれ演るんだよねっヤッタネ!(鼻息)。一番の感想がそれか!w
  • でもほんと、思ってた以上に超面白かったです「按摩と女」。夢中で見ちゃいました。もっとこう、ぼんやりとした、筋も結末もない感じかと思ってたんですけどちゃんと起承転結と情緒が両方あった。そんで、何より素晴らしいのが笑いどころで「ちゃんと笑える」こと。最近の邦画は笑いが下手だと思うので(それは難しいということでもある)、勢いでもなく暴力的でも下ネタでもなく、ノリとツッコミを使わずにただ純粋にくすっとなったりおかしみを感じて笑えるってのは気持ちよかった。男性は愛らしいキャラクター、女性はちょっとツンと澄ましてしっとりとした色気があるの。お洒落。
  • 按摩さん集団いいなあ。目が見えなくても飄々と仕事をしてて。その中でも徳さん福さんはいいコンビ。むしゃくしゃしてたせいもあるだろうけど、喧嘩っぱやい徳さん最高ーぶくく。あと、自分が落ち込んでても恋敵の甥っこである子供っちと遊んであげるのも優しくてよかったな。そして美千穂への恋、見せ場の告白は盲目の設定と相まってすんごくキマッてた。痺れる。でもまあ、結局は勝手な勘違いだったわけだけど(笑)。そういう滑稽さも含めてナイスなストーリーです。本当に盗人だった、という結末でもアリだったと思う。そんな女の悪さも含めて好きになってしまった、そういうのがゆるされる空気のある映画だったから。こういう日本映画って、盲目・按摩を登場させてるとこからもどこかじめっとかねちゃっとかしちゃいそうなんだけど、そういうとこがなくて、本当にモダンで古臭さがない。さすがモダンボーイ。
  • 役者さんについて。徳市役の徳大寺さんは、はじめやけにニヤけた顔だなーと思ってたのが、そのうちすごく整ってかっこよい見目に見えてくる。演技うめえよ!眉を寄せたり、体を揺らしたり、ところどころ白目だったり、しぐさの全部に不自然さがないんだもん。徳さんっていくつなんだろう・・・? 中腰で両腕を前に出して階段を上るキョンシーポーズがかわいくて、にこにこしてしまった。あれを剛もやるのか!かわいいよなぜったい!
  • 関連記事で石井監督が「剛くんは顔からして似てたから」と言っていて、そうかー?と思ってたんだけど、女中さんに椿油を渡しに行くとこの徳大寺さんの顔つきが激似だった。うん、納得。
  • 東京の男役の佐分利さんも、どことなく堤さんに似てる。大人の男にしてはキラン☆とした大きな目、甘い笑顔。女に弱そうなデヘッとした雰囲気、も堤さんは出すのお得意だろうしハマると思う。特に、東京に帰る日、甥っこだけに美千穂にさよならの挨拶に行かせて、自分は馬車の前で待ってるシーン、あそこの感情の揺れが見もの。オリジナル版を1回観た限りでは、自分ももう一度美千穂に会いにいこうか、でもあの女は危険だから会いに行くまいか、このままゆきずりで離れたほうがいいんだ、と自分の気持ちに迷って逡巡してるように見えたんだけど、堤さんはどう演じるだろう。敢えてオリジナルは観ずに演ってんだよね。楽しみ!
  • 福市も似てるし、そういう意味ではさすがにカバーの役者さんはよく考えられたキャスト。違和感なさそうで、そこは心配せずに映画に入っていけそう。もちろん大事なのはその先、なわけですけど。あと、鯨屋のご主人は本当にセリフがつっかえつっかえでした(笑)こっちがハラハラするわ!
  • 全員の心情を突っ込んで描いてるわけではないのに、描き足りないとか薄っぺらいとかは思わなくて、むしろその想像の余地の部分が魅力になってるっていうのは、昔の映画ならではなのかなあ。白黒で、情緒溢れる自然映像だからそう見せられているのだろうか。だとしたら、現代の観客である自分も反省しなきゃ、つまんない邦画を観てはすぐにぺらいぺらいって言ってしまいがちだけど観る側の想像力が足りないだけなのかもしれない。
  • 徳市の恋心はけなげでちょっとかわいらしくて。最後のシーンで駆ける背中にはぐっときちゃう。うう。また、カット割りがうまいんだよなあ!一度振り返る福市の視線に振って、その目線の先に、我を忘れて必死で追いかける徳さんの姿。滑稽だけどせつない。カヴァー版でどうなってるか楽しみ。あそこはハズさないでほしい箇所です。
  • 好きなのはやっぱりその最後のシーン。あと、道で美千穂とすれ違った徳市が気づいて追いかけ、美千穂が怯えて逃げ去るシーン。美千穂を助けようと大慌てでどたどた鯨屋に駆けつける徳市もよかったなあ。
  • とにかく完全カバーにこだわってるのに、どうしてタイトルだけ変えちゃったんだろう?ってそれがずっと疑問だったんですよ。按摩と女、バーン!て感じでシンプルで強いのがけっこう好きなので。「山のあなた」ってタイトルにどんな意味が、思いが込められてるのか。オリジナル版では、美千穂の感情が謎めいていて、そこが魅力でもあるんだけど。真太郎と徳さんとどっちにより惹かれていたのか……たぶんどっちにも手放しで恋する元気はなかったと思う。真太郎の運んできた「東京の匂い」に心が揺らいで、自分が捨ててきた生活やだんなへの未練や罪悪感、後悔、すべて嫌になる気持ち、帰りたい気持ち、あてどない気持ち。でもそういうのを、山の中で目は見えなくとも明るくたくましく生きてる徳市の素直さが癒してくれて、しかも自分を好いてくれて一生懸命に逃がそうとしてくれて、少しは希望を持てるようになったのかなあと。そんな、温泉街ですれ違っていく按摩・男・女・子供のおはなし。山のあなた=徳市?山の温泉街を訪れるすべての人の穏やかな心情を表したもの?とかそういうことを考えながら観たのでした。カラーで、徳市の恋にリフォーカスした石井版「按摩と女」を観れば、その答えがわかるのかもしれない。期待!
  • 観終わって、全編通して爆弾小僧がよかった!!ほとんどこの子んとこで笑ったもん。子供は強い。なので、清水監督の子どもモノ「子供の四季」「風の中の子供」とか見てみたいなーと思ったです。あと石井監督が一番強烈に印象に残ったという「簪(かんざし)」も。
  • あと、音楽を聴く余裕がなかったのでそのへんも含めてもう一回観たいなあ。

清水宏監督作品 第一集 ~山あいの風景~ [DVD]

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按摩と女 [DVD]

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美しい山の温泉場を訪れた徳市と福市の名物按摩コンビ。そこで徳市が出会ったいわくあり気な美女との触れ合い、人々の交流をユーモアたっぷりに描いた、清水宏監督自らのシナリオによるコメディドラマ。永遠のマドンナ・高峰三枝子と、当時の大人気俳優・徳大寺伸の共演。
【ストーリー】 名物按摩の徳市・福市のふたりが新緑を連れて山の温泉場にやって来た。ふたりは盲人でありながらも驚くべきカンの持ち主。先を行く子供の人数や、男か女か、果ては職業までも言い当ててしまうというのだ。ある日、徳市は温泉場で東京から来た女に呼ばれる。どこか陰があるこの女から、徳市は何かを怖れている気持ちを感じる。そんな彼女に徳市は次第に惹かれていった。しかし、恋をしたことから徳市はその鋭いカンを鈍らせてしまう。一方、女は別の宿に泊まっている少年と出会い、そしてその少年のおじさんという男と交流をもつようになる。そんな様子が徳市はおもしろくなく…。その頃、周辺の旅館で次々と盗難事件が起こる。徳市は女が犯人だと思い込み、かくまおうとするが…。
     asin:B0013HN83A