さようなら、と君は手を振った/木原音瀬
- 作者: 木原音瀬,深井結己
- 出版社/メーカー: オークラ出版
- 発売日: 2000/11/01
- メディア: 単行本
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容姿や見た目ばっか気にする都会の男・芦屋誠一×旅館の跡取りで身なりに頓着のない従兄弟・氷見啓介。表題作でいったん手酷く別れ、「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」で五年後。「空を見上げて、両手広げて」は、啓介の友人・柊×啓介の息子(中学生)貴之の短編。
「本当にそれでいいのか。今じゃないと、ついてこいなんてもう二度と言わないかもしれないぞ」
軽く脅しをかけた。これで啓介も自分を惜しいと思って考えを変えないかと、僅かに期待した。
「夢はいつか、終わるから」
啓介は寂しそうな顔でそう言った。
「高校生の頃に、君と僕とが一緒にいた時間がちょうど三週間で、それ以上でも以下でもなかったように」
それにね、と啓介は続けた。
「ずっと続く幸せなんてどこにもないんだよ。そんなの、僕は見たことがない」
(中略)
「十七の時、僕は本当に君が好きだった。毎日が夢みたいに楽しかった。何年たっても、あの時のことを思い出すだけで僕はとても幸せな気持ちになれるんだ」
永遠に続く幸せはないと言いきった啓介。そんな常識を埋め込んでしまったのは自分のせいだろうか。裏切って、裏切って、少しも信じさせてやれなかった自分のせいなのだろうか。そんな悲しいことはないと、絶対にないんだと誠一は思う。だけどそれを啓介に証明してやるだけの信用が、自分にはない。
表題作の終わり方がせつなくてうまいなあと思って好きだったんですよね。それから2編目でちゃんと成長して迎えにくる誠一が改心していて、だけど啓介からは全然信用がなくて、好き勝手してたからだよ〜と思いつつ楽しく読んでたんですよ。しかし子どもが…><そのときの啓介の正直すぎる心境が>< 今までの啓介の生き方を見て、誠一に尽くしてる過程を知って感情移入してるからBL好きとしては一概に責められない…んだけど、これってドラマとかに出てくる自分の恋愛に気を取られて子どもをないがしろにするダメ母親そのものなんだよな〜。実際は、初めから諦めたフリして結婚した啓介の罪と罰でもある。木原さん手厳しい。
結局しあわせなのは一番単純な誠一じゃね?子どもっちとかこの段階だと目もあてられないよ…。ほんとうにすきって、否応なく一番を選ぶってどういうことか、いくらでも装ったり誤魔化したりできる人間のどうしようもなさが容赦なく書かれてて、だけど私はこの話し嫌いじゃないです。ひっついて、しあわせになってよかったね、だけじゃ終わらせないあとあじの悪さがある。普通ここまで書かないよね…。これって人が自分で一番認めたくない・ごまかして通ってる部分だと思うもの。最後にまだ若いゲイと子どもが「何も考えたくねえよ」「…うん」「面倒くさいよなあ」「うん」で終わるってどんなけ。その絶望だらけの中から何か探しだそうと思ったら多少のヒビはしょうがないのかもと思ってしまってこわい。生きて、なりふり構わず何かを手に入れようとしたらどこかにしわ寄せがいってしまうものなのかもしれない。
弁護士の話を聞き、息子の親権を言われた時、最初に頭に浮かんだのは泣いている幼い息子ではなく、自分を翻弄する恋人の姿だった。妻と愛し合って生まれた子供。(中略)誠一は子供が好きだろうか。たとえあまり好きではなくても、僕の子供だったら可愛がってくれるだろう。それなら、いいか。それなら、いいかと…。
自分はまともな『人』なのかと思い、怖くなった。薄情で利己的な考え方に吐き気がした。冷静になれ、と自分に言い聞かせる。けれど、思うことを止められないのはどうしようもなかった。
恋愛は人を人でなくす。夢中になるのをセーブして、けれど我慢できなくて落ちた先は天国で、けれど人であることを忘れた。
ergoでの深井先生の漫画の続きは楽しみ。
↑新装版の表紙。進化してる。文庫の方には、柊と貴之がちょっとだけ救われる感じの4編目が載ってるそうですよー。