巣鴨プリズン13号鉄扉/上坂冬子

巣鴨プリズン13号鉄扉 裁かれた戦争犯罪

巣鴨プリズン13号鉄扉 裁かれた戦争犯罪

mizuhoさんのオススメ(http://d.hatena.ne.jp/mizuho0116/20081130/p2)を読んで、図書館に発注して、それからわりとずーっと読んでたんです。やっぱり辛くて、一気に読めなかったんだもの…ページをめくる手が…。豊松は一応フィクションだけど、実際に生きて戦争に参加して、絞首台に上っていった実在の人々の記録。たくさんの現実にいた豊松たちの来歴や裁判の様子や遺書が載ってます。処刑第一号となった由利敬、尋問の様子が詳しく書かれ長い遺書を残した片岡正雄、収容所の所長で悪い捕虜を殺した罪に問われ日々の日記を遺した水口安俊、捕虜護送船・鴨録丸=別名地獄船を率いて生きて戻りながら証言の食い違いで処刑された都子野順三、……。「私は貝になりたい」の一部モデルになったと思われるような人の話しもあったよ。どれも状況や人となりが調べ得た限り載っていて、胸が詰まった。何を言うこともできないので、いくつかこの本の主題であろうと私が感じた部分を抜粋して紹介します。

(前略)巣鴨で処刑されたBC級五十三人のうち三十一人までが、ポツダム宣言第十条の「吾等の俘虜を虐待せるものを含む一切の戦争犯罪人に対しては、厳重なる処罰を加えらるべし」との条文に抵触しており、由利の例は捕虜収容所関係の被告として一つの典型とも言えるからである。
 国と国との争いの中で、自国の国策に忠実に生きた庶民が、その国策の誤りをどんなかたちで追及され、どんな思いで償わせられていったかという経緯を、このケースから俯瞰して知ることができるからである。

(片岡正雄の遺書より抜粋・現代語訳)
お母様、私は日本軍人として一下士官であり何百万の軍人の上に立つ元帥、大将等からみればゴミのような微々たる存在です。軍人としてあってもなくてもいいような地位の人間でした。それなのに敗戦の結果、選ばれたように戦争犯罪人という大役に当たってしまったのです。(中略) なかんづくその重責は、軍部、政治家にあるでしょう。それなのに私はこの微々たる身にその大責任の贖罪の一部を背負って逝かなければならなくなりました。思えば重い責任です。私のこの心身はその贖罪と世界平和のために散っていくのです。(中略) この捨石が無ければ平和な日本はない。

靖国神社法案についての妻の言葉)
「ああ、あのことねえ。国家予算でお宮を立派にするのは結構なことだと思いますよ。でも、どんなに立派に祀ってやるといわれても、だから死んでもいいと言う人はこの世に一人もいないでしょう」

(藤中松雄の遺書より抜粋・現代語訳)
(前略)父が忘れる事の出来ない可愛い孝一・孝幸ちゃんに最後の言葉として最も強く残しておきたいのは、
『父はなぜ死んでゆかねばならないか』
 という事であります。(中略)それは全世界人類がこぞって嫌う、いまいましい戦争のせいなのです。父は今となって上官の命令云々等言う時間の余裕がありません。戦争さえなかったら命令する人もなく、父が処刑されるが如き事件も起こらなかったはずです。そして戦争で幾百、幾千万という多くの人が戦死もせず、その家族の人たちが夫を、子を奪われ、父を、兄を、弟を奪われて泣き悲しむ必要もなかったのです。だから父は孝一・孝幸ちゃんに願って止まないことは、いかなる事があっても、
『戦争絶対反対』
 を生命のある限り、子にも孫にも叫んで頂くとともに、全人類がこぞって願う
『世界永遠の平和』
 の為に貢献して頂きたい事であります。

(前略)BC級戦犯処刑者とは、捕虜の待遇に関する国際条約と、日本陸・海軍刑法と、ポツダム宣言第十条とによって、追いつめられた三角地点で孤立した庶民である。(中略)
 いつ、いかなる圧力にも屈しない強い個人は尊いが、私としては本文中で二神種恵が述べた通り「庶民は己れの良心だけを頼りに行動できない場合がある」という弱さを前提として物事を考えていきたい。人間は弱いものである以上、ひとたび戦争となれば、必ずいずれかが敗れ、敗れた国の庶民が理不尽にその弱さの責任を負わせられるのだ。

この本を読むまで正直私は、その時代に戦争に行った人々・古い時代の考えや天皇崇拝の考え方をしていた人々にも時代にただ流されたという問題があったんだとどこかで思ってた気がする。でも戦争という問題は、例えば社会に出て理不尽な上司の命令にあったらどうするかとか、いじめにどう立ち向かえるかとか、そういう「個人の良心に従って判断しうるもの」と同列で考えられるものではないんだな、ということがわかった。戦争を知らないから私には想像しかできなくて、その場合の基準がそのあたりの事例や気持ちに留まってしまうのだ。想像しようとするけど、しきれない。それが私の限界で、そんな後世に戦争のなんたるかを残すためにこの本があるんだと思った。うーんうまく言えない。
ちなみに映画の感想はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20081126#1227703038