ためらいもイエス/山崎マキコ ★★★★

ためらいもイエス

ためらいもイエス

前回(http://d.hatena.ne.jp/noraneko244/20060817#1231159873)読んで、他のも読みたいなあと思ってた山崎さん。やっぱり文章が軽快で面白い。28歳処女で仕事に生きる女が主人公なのに暗くもないし嫌らしさもない。前回よりはネット文章っぽさも感じなかったし…。元々はコンピュータ系のテクニカルライターさんなんですね、へえー。主人公の三田村奈津美は恋人なんかいらない、と思いつつ28年生きてきたが、ふとお見合いをする気になる。それから徐々に何人かの男の人にモテ始めたり、おしゃれをするようになったり、自分のトラウマを見つめなおしたり。そしてとうとう好きな人ができた……みたいな話。母や姉や妹との関わりもちょっとずつ描いてあって、それが実生活と同じくらいの按配で、妙にしっくりくる。相手の男の人は、見合い相手のギンポくん、同じ会社のテクニカル部の中野さん、その後輩で彼女がいるのに迫ってくる桑田さん。ギンポくんとの会話でみるみる安らいでいくとこがいいな。やっぱギンポくんだよなーと思いつつ、中野さんに惹かれる気持ちもわかる。情報不足で作者のパターンが読めないから、最後までどうオチるんだろーと思いつつ読めた(でもちょっと冗長かな)。恋愛ものにしてはなかなか楽しい読書でした。しばらくしたらまた、ギンポくんの言動に留意しつつ読み返してみたい。

 そう考えたときふいに、ギンポ君に鼻をつままれたときの感覚がよみがえった。ついでにあのときのギンポ君の言葉も思い出す。
(いまの質問は、可愛くもなければ面白くもない。自分の個性をその他大勢のなかに埋没させて誤魔化そうとした。------よくない)
 ソファに身体を投げ出し、顔を埋め、頭のなかのギンポ君に喧嘩を売った。
「そんなこと言ったってだな、生きていくってのはそういう事なんだよ! じゃあどうしろっていうんだ。内臓デロデロ出して生きていけと言うのか」
 頭のなかではわたしの心の叫びに対してギンポ君が繰り返し、
(可愛くもなければ面白くもない)
と答えていた。

ためらいもイエス (文春文庫)