嫌な奴/木原音瀬


教師を職とする杉本和也は、大嫌いな「親友」三浦に会うため12年ぶりに故郷を訪れる。高校合格と同時に裏切ったきりだった三浦は昔と変わらず嫌な奴だったが、和也はどうしても突き放すことができない。三浦に押されるまま、一緒に暮らすことになってしまい……。シリーズ6連作を一挙収録。

前半はとにかく萌えた!転校した田舎の小学校からの幼なじみ。これすごいいいわ〜と思って、けどさすが木原さん、最後まで思いが通じないままで行くとは思わなかった。BL読みの希望を嘲笑うこの非道っぷり。好きじゃないのに(むしろ嫌いなのに)自分の体裁のために仲良いフリをする「嫌な奴」=主人公和也。でもあそこまでつきまとわれてそれでも振り切れないなんて、和也も三浦のこと嫌いと同時にちょっと羨ましいっていうか憧れる部分もあったのかなーとか。三浦も何度も迷って苦しんでるってのがわかるのがいい。最後でちょこーっとだけ和也が振り向いたような描写があって、けどそれは、そのあとの三浦視点の短いエピソードで打ち砕かれるわけですよ。だって、あまりに裏切られ続けた三浦は、和也のその小さなしるしに気づけないんだよ。それは、この二人が一生通じ合うことができないっていう暗示じゃないのかと。私にはそう思えて身震いした…。夢中になって読んだけど、読み終えたあと頭が痛くて重いです。

「お前といたって、楽しいことなんかあるものか。一人のほうがずっとましだ。けどこうしてると、気持ちがいいからさ」
 はだけられた胸許に顔を押しつけてくる。
「そんなの、体だけじゃないか」
「体しかくれないんだろう」
 三浦は少しだけ体を起こして、僕を見下ろした。
「ここは、駄目なんだろう」
 三浦は右の手のひらで、僕の左胸をゆっくりと押さえつけた。
「同情もしてくれない、友達にもなれない。そこにいないみたいに無視されて、話しかけても返事はない。俺はここに入れてもらえないんだろう」
 押しつけた手のひらで胸をわしづかみにされた。爪が食い込んで、痛い。
「けど、触れると温かいんだ。それに触ったらお前の体は返事をする。嫌だとか、気持ちいいとか。そっちのほうがずっと、優しい」