指先で紡ぐ愛 グチもケンカもトキメキも/光成沢美

確か黒須みゆきさんのブログで知って。盲ろう者(目が見えず耳も聞こえない)の福島智さんと結婚した光成沢美さんの手記。盲ろう者と暮らす人ならではの日常の失敗話とかケンカしたときの状況とか、かなりわかりやすい。福島さんの人となりも、単にポジティブでひょうきんな人、というだけでなく、理論好きだったり結婚をメリットデメリットで語ったりわがままだったりだらしなかったり男性的な受け答えをしたり、と妻であるからこその分析が披露されていて面白かった。それでも強い人、には変わりないし、だからこそ東大の助教授になることもできたしこういう生き方をしてこれたんだろうとそのちょっと強硬な性格をも愛している感じが出ていてよかった。たぶん第五章の「障害者の妻ってなんだろう」って部分が一番言いたかったんじゃないかと思うんですけど、もっと突っ込んで書いてほしかったな。
http://www.jinken.ne.jp/challenged/kiitonokai/index.html
http://www.nhk.or.jp/heart-net/fnet/arch/mon/40209.html

(福島さんの手紙)
 ヴィクトール・フランクルの『死と愛』。その中に恋愛、ないしは愛に関する三段階の記述があって、心を打たれた。
 第一段階の愛は、相手の外見的特徴、つまり美人であるとか、ハンサムであるとか、そういった外見的特徴に由来するもの。
 第二段階の愛は、相手の性格や性質に由来するもの。つまり、優しさや頼もしさ、りりしさやゆるぎない正義感など。しかし、この段階の愛は「かけがえのある愛」。
 第三段階は文字通り「かけがえのない愛」。つまり、相手の外見ではなく、相手の「存在自体」に意味をおき、相手と共にあることにすべての価値を見いだす段階。
 おそらく三つ目の段階が真実の恋愛と言えるだろう。
 「優しいから好き」などは論外だ。「あの人だから」、「あいつだから」、好きなのであって、それはかけがえがないし、他と比較することも、少なくとも客観的にはできない。

「もう、夫の通訳が大変で……」
 と、グチが言えたらどんなに良かっただろうと、振り返ってみてそう思う。
「夫の通訳が大変で」
 と言っても、
「そんなこと、分かったうえで結婚したんだろ」
 と、取り合ってくれない男性もいた。
「あなたは奥さんなんだから、それがあなたの仕事でしょ」
 と、年配の奥様に言われた時が一番つらかった。(中略)
 そんな時、ポロッとグチの言える相手は、夫しかいなかった。しかし夫に、
「あー疲れた!」
 と言っても、グチのつもりがグチにならない。
「オレにどうしろと言うのだ?!何か具体的な提案があるのなら言え!」
 と、とたんに怒りをかう結果になる。夫は問題が起きるたび、何とかして解決策を見つけてやってきた。もし、盲ろうになっても、”グチを言うだけで”あきらめていたとしたら、今の彼はない。私の夫とはそういう人なのだ。