ムーン・シャイン/若木未生


再読、シリーズ3作目。ファーストアルバムのレコーディング、の途中まで。モメにモメてます。先生と尚の言い合いのとことかコワイわーっ!天才の音楽を壊してしまう、紙一重、それでも苦しくても音楽やるんだ、というのがこれでもかと描かれてます。まさに嵐が丘。読み応えあったー。シビアなシーンのあとでちゃんとワンクッション笑えるやり取りがあってほっとできるのがいい。そして私は、この中の「ムーンシャイン」という坂本視点のお話が大好き。神経症的なズラズラした文章の中に、はっとさせられる場面がいっぱいあるんだよねえ。

「あのさ……いろんな音楽があるからさ、多分、身体を動かして汗をかくみたいに音を作る人はいるよね。レンガを積みあげるみたいにさ、ちゃんとした設計で家を作ることもできると思うんだ。けど俺が坂本君なんかと一緒にいてさ、それでやるんだったら、俺もそれは必要だったら汗もかくしさレンガも焼くけど、でもさ……俺が本当のところで思うのはやっぱり、本当に、本当に俺のなかから出てきた音だって自分でいえるのは、俺と坂本君がつくれる音っていうのはさ……」
 呼吸ができないときの俺と同じの。
 少しずつしか言葉が出せなくてどこかで何か余って震えるみたいに、ゆっくり、徐々にそこまで話をつないで、そのあと藤谷さんがぽつんと言った。
「涙だよね」
 俺の足よりも下でエンジンの音。
 なに言ってんだ当たり前だそんなのと俺は思ったから答えなかった。
 そんなこと思ってたって自分で吹聴したら恥知らずだから、みっともなくて大声で宣伝できやしないから黙ってる。
「安い泣き方なんてさ、できないよね」