妖怪アパートの幽雅な日常6/香月日輪

今回はスキーの修学旅行先のホテルでのお化けと戦うお話。前回から登場の千晶先生フィーチャー回でもあります。元々霊感が強いのか、夕士のヒーリングを受けたせいで敏感になってるのか、ホテルの怨霊につきまとわれる千晶を何かと面倒見てかばってあげる夕士が頼もしく見えます。そしておいしい^q^ 更には田代がお仲間だった^q^ 千晶先生が男子生徒に慕われてて、「モテるには」的な雑談をしてあげるのはすごくいいなあと思った。友達が一緒になって千晶を守って寝てくれるのも。千晶、いい男すぎんだろ…。あとがきで、長谷とのコンビも今後活躍するらしいので期待。

「傷は大丈夫だが、昨夜から頭痛がして、これがすげぇイライラするんだよ。昼間おさまってたんだが、夕飯前からまたブリ返してきて……。家から頭痛薬を持ってくるの忘れちまってな」
「薬が効かないからって、立て続けに飲むもんじゃありません」
「すいません」
 俺は、千晶の袖を引いた。
「なんだ?」
 千晶を看護師と田代からちょっと離して、二人に背を向けた。
「あんまりしんどくなったら、ツボマッサージしてやるよ、先生」
「…………いいネ」
 千晶には、一度「ヒーリング」をしたことがある。田代の時は否応なかったが、千晶の時は俺は自分の意思でヒーリングができたんだ。千晶はもちろん、それがどういう現象なのかは知らないが、俺が言った「ツボマッサージ」という言い訳で納得してくれている。
「だから、あんまり薬を飲むのをやめろ」
 こそこそ話す俺たちの背後で、田代が看護師としゃべっていた。
「この二人、萌えない〜?」
「私、萌えってイマイチよくわからないのよねぇ」
「先生、人生の半分損してるわ」
「半分もっ?!」
「あたしなんて、この二人を見てるだけで楽しいのよ。得してると思わない?」
「う〜ん、そう言われれば。この場合、やっぱり千晶先生が”旦那”なの?」
「あたしたちの間でも意見は分かれてるけど、あたしは稲葉が旦那派」
「へぇ、そうなんだ。えっ、なんで?」
「オイッ!」
 黙って聞いてりゃ、本人の前でなんの話をしてやがる。
「俺らで萌えるな!」
「いーじゃん、別に。どーせ、あんたは女無用なんでしょ」
「女無用って、なんだよソレッ!!」

「う……」
 千晶が呻いた。起きようとしているが起きられないようだ。俺は、背中から千晶を抱きかかえて上半身を起こしてやった。そして、そのまま左手で千晶の目を覆い、右手を胸へ当てた。
「稲葉……」
「いいから。先生、よく聞いてくれ。もし他の先生が、あんたにホテルで休んでいろとか言ったとしても、ゲレンデへ来い。このホテルの中で一人でいるのはよくない。しんどくても俺たちといるんだ」
 そのために、なるべく千晶のダメージは取っておかないとな。
 抱き合った俺の汗が流れ、息が少し荒くなった様子を、千晶は睨むように見た。
「稲葉。これがどういうテクなのか詮索はしないが、お前に負担になるようなものなら……」
「先生。もし本当に負担になるようなら、俺はしねぇよ」
 千晶は俺を見た。まっすぐに。
(中略)
「それとな、先生。コレ……」
 俺は「お札」を取り出した。
「ん?」
「あーん」
と、俺が口を開けると、千晶はつられて素直に口を開けた。そこにお札を入れる。お札といっても、小さな紙きれで「千枚通し」という「飲むお札」である。
「なんだ? 紙?」
「いいから飲んで」
 俺は水を渡した。
「ただのおまじないだよ」
 笑った俺を、千晶はまた睨むように見た。
 生徒にこんな得体の知れない奴がいることを、千晶はどう思っているんだろう。俺は、今さらながらふと不安になった。その時、不意に千晶に抱きしめられた。
「!」
 千晶は、無言で俺を強く抱き、ポンポンと背中を叩いた。そして、無言のまま部屋を出ていった。
 俺は、呆然とその後ろ姿を見送った。
 俺の考えを、読まれた気がした。とたんに、すごく照れくさくなった。顔が、カッと火照る。
「あーもう、なんなんだよ!」
 俺はもう一度、顔を洗いに行った。