熱の城/若木未生


再読、グラスハートシリーズ8冊目。TBは4枚目のシングル制作中で正念場。尚のお父さんが危篤だったり、坂本が不安すぎて喘息の発作起こしたり(駆けつけた朱音の前でまた泣いてたよあいつ…不憫なやつ)、櫻井ユキノが先生をハメようと乗り込んできたりぐちゃぐちゃです。でも朱音とそれぞれ、坂本と藤谷先生との会話がいっぱいあるのでテンポよく読める。坂本がもう、不憫な上に可愛くてねー、朱音もかわいい・大事にしたいって思うシーンがあるんだけどウンウン頷ける感じです。
前半はすごくぼやかして書いてるのでわっかりにくい。何度か読まないと意味が汲み取れない、けどわかるとちゃんと感情の動きが見えるので感動する。先生に初めて揺らぎが出る巻でもあります。櫻井ユキノの歌に引き摺られて(たぶん)自分の歌の及ばなさを不安に思ったり、そこで根っからのボーカリスト・桐哉にハッパかけられて正気に返って曲を仕上げ、そして最終的には朱音に対する気持ちを口に出すというね。この最後の最後がもう、ヒドイ!!改めて読むと朱音もそれなりにずるいけど、先生の告白の仕方が輪をかけてずるい!携帯越しに、歌って告白ですよ、歌詞が「だれのものでも、きみを僕が好きなんだ、それは好きで、それだけなんだ。一目散に、ここをぬけだしたらあとは、きみをめざして、歌うけどいい?」で、実際会ったら「好きにならないって言ったのにごめんね」ですよ。坂本とのこと知ってるのにこれは極悪…。でも先生が音楽的にいい方向に変わったのもわかるから、うまく音楽話と恋愛話が両立して進んでるなって思えてよかった。朱音側からしても、音楽やるには自立してなきゃいけないんだって、誰かに寄りかかったり依存したりするんじゃなく、ちゃんと自分がなきゃいけない。そういうラインで、ちゃんと最終回への道筋が張ってあった気がする。

「先生、あたしがテン・ブランク休んだら困りますか」
「困る」
 地面から見あげて先生が言った。
「あっ。でもそれは西条朱音の人生の話?」
「先生は関係なくなってていいです。あたしが自分で欲しいもの言います。あの、バンドでやりたいことたくさんあるのに、あたしの都合言ってすみません。でも西条、受験したい大学あるので、受験日まで、勉強する時間ください」
「いやだ。一分一秒でも他にあげたくないよ」
 って。
 本音で。
(──こういうの幸せっていうんじゃなかったら何)
 まちがってるかもしんない。
 けど凄く思った。
 まちがっててもいいよ。
「先生、自分は勝手に他の人とも音楽やるのに、わがままだよ!」
「知ってるよ! でも我慢できないよ」
「我慢するのおぼえようよ! ちっちゃい子じゃないんだから!」
「できないよ。どうにもなんないよ」
 じりじり、熱の。
 焦げるのが、足の裏に、くるみたいに。
 立ってる場所が。
 わかってきた。
(あたしは、TBが避難所じゃなくていいです)
 先生に怖い気持ちさせない。
 あたしのこと、わがままで曲げたり、させないよ。
 どんな未来になっても全部、あたしの、自分で決めたもので。
 藤谷さんに変えられたなんて言わない。
 そんなふうに、先生苦しいことから守るのが、できるよ。
(この人の持ち物になっちゃだめなんだ)
(ずっと、あたしのこと、思いどおりにならないで困っててほしいんだ)
 きらわれるかもしれないのに、危ない考え、あって。
 やめられなくて。
 だって今が大事って。今。ここで、この瞬間、絶対怠けたらだめって。
 心臓でわかって。
(負けなかったら、西条もしかしたら)
 危ない。
 どうしよう。
(──もしかしたら、この人、あたしの手に入る)
 そんなの考えるあたしがおかしいって本気で思った。頭と両耳、がんと痛くなった。自分信じらんなくなった。ぎりぎりで、いちばん大事なもの何って自分にきいた。いちばん大事でいちばん壊しちゃいけないものは知ってた。あたしの音。
 ずるく鳴らないで。
 覚悟、ある音で。