SOSの猿/伊坂幸太郎 ★★★

うーん。個々の考え方は相変わらず共感できるんだけれども。「性格や環境や教育で子どもおかしくなったと考えるよりも、悪魔が憑いてると思いたがる」とか「犯行の原因をやっきになって探すのは、それを知って安心したいから」とか。星の音楽の話もわかるなあ、と思ったし。悪魔祓いに乗り出す「私の章」の導入は楽しく読めて、どうなるんだろうーと思ってたけど、結局真相は無意識で、挟み込まれる猿の章で何とか間を持たしたような印象を受けてしまった。

 その時の眞人君は、「歌っていうのは自己満足ではないんですか? 人を救うんですか?」と質問とは言いがたい口調で言ったらしい。(中略)
「あのね、あの空のずっと向こう、宇宙のほうにね、あるんだよ」
「何がですか」と眞人君が訊ねる。
「何かだよ。大事な石みたいなものだよ。目に見えない、石」
「隕石じゃなくて?」
「それでもいいよ」雁子さんは歯を見せた。「で、わたしたちが歌をね、このメロディをハーモニーを発すると、あそこの石が、聴いてる相手に落ちてくるのよ」
 眞人君は当然、「意味が分かりません」ときょとんとし、雁子さんは豪快に笑う。「分かんなくてもいいけど、とにかく、わたしたちは、聴いてる人に自分たちの歌を届けようとは思ってないわけ。(中略)わたしたちの歌はね、空からでっかい石を導くのよ。聴いてる人の胸にその隕石をぶつけるの」
 眞人君は、雁子さんから説明を受けても首を捻るだけだった。「歌が、隕石を落とすって、どういう理屈なんですか」と言って、これからは雁子さんたちのことを星の楽団と呼ぼう、と茶化した。
「隕石ってのは、『遠くから降ってくる大事な感覚』のたとえだよ」
「大事な感覚って何ですか。感覚とか気持ちっていうのは実体がないじゃないですか」
 眞人君はいつになく、興奮気味だったらしい。雁子さんはだからなのか、少し強い口調で、「あのね、人の気持ちに実体はないなんて、一生部屋でマスかいて死んでく奴らの言うことだよ」と言ったのだという。

↑この話すげーよくわかる。伊坂さんのこういうとこが私の感覚には合ってるんだと思うなあ。で、そんな青い眞人くんが感受性をフルに働かせて暴力について行動したのがこの「SOSの猿」って話なんだと思うんだけど。