死のクレバス―アンデス氷壁の遭難/J.シンプソン著・中村輝子翻訳 ★★★★

氷山の遭難ものを読みたい!と思って。舞台はK2ではなく、ペルー・アンデスのシウラ・グランデ西壁での遭難です。こちらはジョーとサイモン。

未踏の氷壁に予想以上に苦しめられた末、彼らは登頂に成功した。それが一転して悲劇に変わり、下降中にジョーが足を骨折。シャワー雪崩と闇に包まれて、ザイルを使って絶壁を必死で滑り下降中、ジョーは宙吊りになる。上に居て状況のわからないサイモンは生命の危機を感じ、やむなくザイルを切断。ジョーはクレバスに落下するが奇跡的に助かり、絶望にさいなまれながら脱出を図る……。

もう、読んでるだけで足が痛いし寒いし、なんで山なんか登るんだよう!と思いっぱなしですよ。つらー!無事生還できるのか、どう助かるのか、夢中で最後まで読んじゃいました。山のことよく知らないから具体的に想像しにくい部分もあったんだけど(想像はするけどそれが合ってるのかわからないw)、序盤と終盤は写真があってルートも図解されてるので親切。滑落はけっこうな頻度で起こるもんなんだとか、雪洞を掘ってそこで寝れば夜も越せるんだとか、わかったこともいっぱい。一番つらかったのは、怪我したあと、ザイルで吊るされて痛みに耐えながら絶壁を下ろされてるところかなあ。もう痛い痛い痛い><てなった…。ザイル切断からお互いのしたことを思うシーンや死んだと思うシーンも苦しくなる。泣いたり叫んだりおかしくなったり、阿鼻叫喚しながら、孤独な山の中で生きることを諦めずに行動したジョーはまじえらいと思う。クレバスの斜面を這い上がって、岩だらけのモレーンを瀕死で這いずってベースキャンプまで戻るとか…私なら5回くらい死んでるわ…。淡々と書いてあるんだけど、それだけに胸に迫るものがあった。読んでよかった。

(サイモン視点)
彼はとても落ち着いた口調で足を折ったと言った。悲愴な感じに見えたが、咄嗟には何の感情もわいてこなかった。何てことだ、お前! 死んでしまうんだぞ……間違いなくな! 彼にもそれは分かっていた。表情を見れば分かる。すべてが全く理性的だった。われわれが現在どんな所にいるか分かっているし、周囲の状況も素早くのみ込めた。そしてジョーは死ぬと思った。私も死ぬかもしれないとは思わなかった。もちろん一人でも下山できる。それを疑いもしなかった。

我々は残酷な闘いに追い込まれていた。私の場合は、痛みに責めさいなまれることであり、サイモンは、九〇〇メートルを休む間もなく私を降ろすという果てしない肉体的苦行である。自分の足場が崩れる瞬間を彼は何回想像しただろう。私はそんな場合を気にするどころではなかった。しかしサイモンは、もし彼がその気になれば、一人で問題なく下ってしまえるのである。私は彼の行為に感謝する気持ちになりかけたが、急いで思いとどまった。彼への依存心を強めるだけだからだ。

サイモンは落ちた時、はじき飛ばされて、クレバスの上を越えたんだ。斜面に打ちつけられ、止まった。そうして彼は死ぬだろう。あるいは落下した途端に死んだにちがいない。ザイルが張ったら、プルージックで上がっていくんだ。彼の体がしっかりアンカーになるだろう。そう、これでいける……。
ザイルがはねるように落ちてくるのを見て、希望が砕かれた。ザイルを引き寄せ、すり切れた端っこを見つめた。切断! そこから目が離せなかった。(中略)ここから脱出できるわけがない。ちくしょう! ここまで頑張ることはなかったんだ。稜線で私を見放してくれればよかったんだ。その方がずっと救われる……結局はここで死ぬのだろう。あれこれやってみることなどあるものか。
ヘッドランプを切ると、すっかり打ちのめされ、闇の中で忍び泣きした。こらえきれずにわっと大声をあげて泣き出すと、声の合間に子供っぽい響きが足元の虚空に吸い込まれるのに耳を澄まし、また泣き始めるのだった。


映画になってたんだ!観たいー
 

で、これは実話で、ジョーはこの遭難のあとも登山に復帰して登り続けたという事実…。どうなってるの…。すごい情熱だなあ。