オー!ファーザー/伊坂幸太郎 ★★★☆

これは面白かった。父親が四人もいる飄々とした高校生の話なんだけど、主人公と父親たち(鷹、勲、葵、悟)のキャラと会話が楽しくてすらすら読めた。父親多すぎギャグみたいのがやっぱ鉄板でくすっとくる。主人公の由紀夫がわりと器用に何でもできて冷静で、ってともすれば鼻につくキャラなんだけど、終盤では自分の無力さを痛感したり、ピンチのときに父親の声を聞いて涙ぐんじゃったり、ちょっと崩れるとこのギャップが可愛かった!ラストの救出劇も、現実離れしててあほなんだけど、なんか爽やか。おとうさんかっこいい!と陽気なギャング〜と同じく気楽に読める一冊です。しかし珍しくタイトルがださいねw


「いくら外側が可愛らしくても、蓋を開ければ結局、賭け事と勝ち負けの横行する、きな臭いギャンブル場じゃないか」
「由紀夫」入場料を支払うために、財布を開いていた鷹がそこで顔を上げ、由紀夫を見た。
「何?」
「その通りだ。それはこのレース場に限ったことじゃねえよ。社会全体がそうなってんだって。見た目は、優しく、平和で、みんな平等みたいに見えるけどな、中を見てみりゃ、勝ち負けと不平等の横行する、きな臭い賭場みてえなもんだ」

 教科書を開き、ノートに書き写したキーワードを眺め、図表を書いてみる、こうして書いてみると、日本の歴史は簡単なフローチャートみたいだな、と由紀夫は苦笑する。戦で死んでいった人間たちの、たとえば、矢で刺された苦しみや、残された子供の絶望、窮地に追い込まれた政治家の緊張はまるで浮き上がってこない。あるのは、戦の結果と制定された法律や制度ばかりだ。
「だから」と悟が以前言っていたのを思い出す。「だから、今の政治家もどちらかにこだわるんだ。戦をはじめるか、もしくは、法律を作るか。歴史に残るのはそのどちらかだと知ってるんだ。地味な人助けはよっぽどのことでないと、歴史に残らない」